11月7日18時半の部、シアターオーブ(結末にふれます)。
 …正直、一幕は、ちょっと舞台が重いかな…と。スーパー歌舞伎U『ワンピース』、主人公ルフィを助けるカマバッカ王国のエンポリオ・イワンコフ役でのプリティーな怪演で天下に名を轟かせた浅野和之が、執事ベイツ役で実に細やかにボケ倒しているのだけれども、いまいち拾ってもらえていないような…。
 休憩後。二幕から出番となるマッジ役朝海ひかるが舞台に登場し、ぱあっと両手を広げた瞬間、…大輪の花があざやかに咲いたようだった。そして、相手のセリフにピシャッと返す、その間がとてもいい。ボケもツッコミもキュート。舞台がテンポよく弾みだした。そうなってくると、携帯もインターネットもない1930年代が舞台の、多分に古風なラブ・コメディ、その物語の行方に俄然ドキドキし始める。なんせ、主人公の舞台スター、ジェリー(坂本昌行)とヒロイン・デイル(多部未華子)は、互いの名前さえ知らずに恋に落ちるのだから。そして、デイルがジェリーをマッジの夫ホレス(益岡徹)だと勘違いしてしまったことから、恋は大混戦状態。…いったいどうしてマッジは、自分の夫が目の前で私を口説いていても平気なの〜??? と困惑するも、どんどん彼の魅力にはまっていくデイル(を観ているのが、すべてをわかっている観客としては大いに笑いどころなわけである)。ジェリーの方では普通に独身同士で惹かれ合っていると思っているから、ガンガン口説きにかかる。歌も踊りも◎、坂本ジェリーが実にロマンティックである。しかし、このまま既婚者に恋をしていたってどうしようもない〜とあせるデイルは、自分に思いを寄せるキザなイタリア男と勢い余って結婚してしまう。この恋、どうなる?
 実は。ベイツは主人であるホレスに命じられ、さまざまな変装をしてデイルを見張っていた。ウェイター、シェフ、“年老いたものの魅力はまだ失ってはいない”未亡人(ベイツ本人談)、ゴンドラ漕ぎ。そして牧師に化け、デイルとイタリア男との結婚を取り行なっていたのだった。無資格牧師による挙式、よって、婚姻は無効〜。なぜ若い二人の恋を助けたのかと尋ねられ、浅野ベイツは、胸に手をおいてしみじみ答えるのだった。「愛です」と。心を寄せ合う二人には、手助けが必要だと思ったと。…落涙。酸いも甘いも嚙み分けた大人の男性が見せる、深い思いやり。自分より人を、大勢を思うことのできる優しさに、最近心打たれがち。なんてダンディ! そしてセクシー。急な代役登板となった『You Are The Top 今宵の君』で初めて舞台姿を観て以来、浅野和之は私にとってセクシーな人なのである。『ワンピース』のイワンコフも、性差を超えてセクシー。今回は、未亡人の扮装をして、スカートを少しまくり上げて美脚を披露する、そのチラリズムがセクシー。
 相手の欠点を次から次へと並べ立て、「それ以外は大好きなんだけどね」と、息の合った夫婦ならではの掛け合いソングを益岡ホレスと歌う朝海マッジも、堂々たる大人の女性の貫録美である。アンサンブルにも踊れるダンサーが揃い、見応えのあるダンス・ミュージカルとなっているところ、名ダンサー朝海ひかるがちょびっとしか踊らないのはもったいないけれども、ところどころで軽やかなステップを踏んでいて眼福。大人たちが手助けする、若者の恋。『TOP HAT』はそんな粋な話でもあるのだった。
2018-11-08 23:01 この記事だけ表示
 あひるに近代建築趣味を教えてくれた弟が、先月、実家でぽつり。
「和田堀にある『普門館』が今度取り壊しになるんだけど、一回行ってみたいんだよね」
 ああ、うちからバスですぐのあそこね。夜にふと見ると、ライトアップされた姿に、モスクワのクレムリンに来たかといつも思ってしまう、立正佼成会の大聖堂。その向かい側に建っている、あの巨大円形建築「普門館」。信者じゃないから縁のない建物だと思い込んでいたけれども、調べてみれば、カラヤンにパリ・オペラ座バレエ、ボリショイ・バレエも公演したという歴史のあるホール。どうして一度も観劇しに行かなかったんだろう…と嘆いてみても始まらず、取り壊し前の一般公開初日(11月5日)に馳せ参じ。開館時間の少し前に着いたら、並ぶ人がいて開館が早まったということで、思い思いに楽器を吹く音がもうすでに聞こえてきていて。「全国吹奏楽コンクール」の会場だったことから、“吹奏楽の甲子園”として有名なこのホール、今回の公開も、吹奏楽関係者に思う存分このステージで吹いてほしいという趣旨のイベント。長年取材で携わってきた「ブラスト!」の関係者や観客も来ていたりするのかな…と、ステージに足を踏み入れて思う。
 でかっ!
 なんせ5000人級のホールである。宗教的モチーフをあしらったきらびやかな天井の下、三階席まで舞台をぐるっと客席が取り囲んでいる。しかし。あれは何ですか? 左右、二階客席あたりから、両花道につながっているエスカレーターがある(それとは別に、花道の出入り口もある)。あんな舞台機構、見たことない! 早速、ホールの方に質問〜。と、昇降切り替えられて、宗教的行事の際などに人々がそこから登場したりしていたという。
「…ここで宝塚を上演したとして、ラインダンスのとき、あそこから人がどんどこ登場してきたら、すごいな…」
 …いつしか、舞台中央に立ち、客席に向かって、エアシャンシャンを手に、何とはなしに「♪FOREVER TAKARAZUKA FOREVER」と心の中で歌うあひる。…それ、劇場、違うから。しかし。これだけ多くの人に見つめられるということは、すごいことですな…と、改めて。耐震基準を満たさないという理由で、本当に多くの建築がこの世から姿を消していっていて…。こんなユニークな建物、もうなかなか建つまい。カラヤンが作らせたという反響板にメッセージが書けるようになっていて、残念ですと書き入れ、劇場空間を堪能して帰ってきたのですが、ホールの方に熱く質問する姿が動画ニュースに映り込んでいました(笑)。「普門館」一般公開は11日まで!
2018-11-08 22:57 この記事だけ表示