11月1日より、東急文化村とフランチャイズ契約を締結したKバレエカンパニー。その契約締結記念として本日開催された、熊川哲也芸術監督による記者懇談会に参加してきました。縛り等は一切なく、記者から寄せられる質問に芸術監督が答え続ける、超充実の一時間。そのシャープな芸術論に、幾度も心しびれる瞬間が…! 何なら一日中、いや、永遠に聞いていたい! と思いましたが、その続きはまた作品を通じてということで。聞いていて、…昔、隣のシアターコクーンの蜷川幸雄芸術監督が、熊川芸術監督のキャラクターを投影して演出した役のうちの一つを思い出し。本日、内容のすべてはご紹介できませんが、取り急ぎ、12月6日からオーチャードホールで上演される『くるみ割り人形』では、これまで全部は実現していなかったヨナンダ・ソラベンドの舞台美術の当初のデザインを一部復刻、その芸術性をよりはっきりと表すプロダクションになるとのこと。来年9月上演予定の『マダム・バタフライ』の話もいろいろおうかがいできて、ますます楽しみに。
2018-11-26 23:22 この記事だけ表示
 あひるはデパートの上階フロアでやっている物産展が好きである。事前に情報をチェックした上で赴くこともあれば、偶然の出会いを楽しみにすることもある。今年、二月&三月のこと。たまたま立ち寄った吉祥寺、そして新宿のデパートの物産展に、「道頓堀今井」が出店しているではないですか。今井。大阪道頓堀、グリコの大看板から徒歩数分、大阪松竹座&近松門左衛門ゆかりの竹本座跡と同じ通りに本店がある今井。戦前は楽器店だった今井。うどん&そばの名店。
 今井。四月には行くけどね! 正しくは、大阪松竹座に行って、そのとき絶対寄るけどね! …あひるはうきうきしていた。なぜなら。四月の松竹座、スーパー歌舞伎U『ワンピース』に、四代目市川猿之助が出演することが発表されていたから。ここは一つ、前祝いと行こう。ということで、今井イートインコーナーのメニューの前でたたずむことしばし…。
 選べない〜!
 きつねうどんと、鴨うどんと、親子丼…。苦悩。今井といえば、甘く煮付けたおあげ(「まるき」)が入ったきつねうどんが名物…。でも、あひるは鴨も好き…。親子丼も気になる〜。…めちゃめちゃ迷った挙句、親子丼に小きつねうどんがついたセットを選択(三月には鴨うどんにしたことは言うまでもなく)。
 あひるがそのときうきうき今井のメニューで悩んでいられたのも。怪我からの復活の舞台となった一月の「壽初春大歌舞伎」『菅原伝授手習鑑 寺子屋の段』(歌舞伎座)で、涎くり与太郎役を演じる四代目の、元気な悪ガキぶりを堪能していたからである。…昨年11月の事故のとき、身体に負った傷はもちろんのこと、心配だったのは、…立つべき場所に立てない、そのことによって、心に傷を負うようなことはないだろうか…ということだった。大丈夫だった。前と変わらず、かわゆかった。それでひとまず安心。
 …と思って、そのときは今井のうどんを満喫していたのだけれども。四月公演の初日が近づくにつれ、次第に不安に…。完治、してないよね…。ルフィってけっこう運動量が多い役なんじゃあ…。でも、初日の幕は無事開いたみたい。安心。…ということで、初日から一週間ほど経った日のこと、大阪へ。まずは道頓堀今井本店にて腹ごしらえ。…ああ、本店はメニューが多すぎて選べない〜。激しい逡巡の挙句、鴨かちんうどん(お餅入り)に「まるき」をトッピング、そしてデザートに夏みかんゼリーを堪能していると、…あら、今晩、松竹座に出前するみたい。
 そして遂に劇場へ。
 ルフィめちゃめちゃ動いてる〜〜〜!
 …平昌オリンピックのフリースケーティングの後、羽生結弦に「無理禁物!」と書いた人間としては、ここでもやっぱり「無理禁物!」って書くべきでは? でも、「無理じゃないんです! 舞台に立つことがリハビリなんです!」と言われそうな…(その数日後に出演していたテレビ番組で実際そう発言)。その上、ルフィはゴム人間、だから開放骨折しても痛くないんだ! なんてアドリブさえ…。痛くないわけないだろ〜! と、なぜか外野が骨折した当の本人に向かって言いたくなる始末。…この地上にこの人を止められる人は誰もいまい、とあひるは思った。そして近づく“ファーファータイム”。ゆずの主題歌「TETOTE」にのって、ルフィが宙乗りし、観客がスーパータンバリンを打ち鳴らし、舞台と客席とが一つになって大盛り上がりする、あの場面――。
 …実は。昨年秋の東京公演の際、あひるはスーパータンバリンを買わなかった。評論家だし…。ためらう気持ちがあった。手拍子していた。でも、松竹座公演のときには、気持ちは変わっていた。一緒になって盛り上がり、その思いを味わった上で、冷静になって書き記せばいいのでは? そして、松竹座のときは、イエローに加え、限定カラーのピンクとブルーが発売されていた。ピンクなら、着ている服とのコーディネートもバッチリ。ということで、入手。買ってわかったことが一つ。過去に宝塚月組公演で販売されたタンバリンは、胴についたシンバルが金属製だったのに比べ、スーパータンバリンはプラスティックだから、音が耳に優しい。そして迎えた“ファーファータイム”。
 ――宙乗りする四代目ルフィの姿に、嗚咽。怪我をした方の腕でサーフボードを何度もつかみ、「大丈夫です!!!」と激しくアピールするルフィに、嗚咽。ピンクのタンパリンを鳴らしながら、嗚咽。結局、“ファーファータイム”中、ずっと嗚咽! …いやあ、人間って、こんなに長く嗚咽し続けられるものなんだと、自分で自分にびっくり。嗚咽最長記録。そうさ、それくらい心配だったさ! 私がはらはら気を揉んだってどうなるもんでもないからと、今井のうどんで前向きな気持ちになろうとしていたけれども。
 それにしても。四代目市川猿之助は、少年のあどけなさを、なんてまばゆく、…ほとんど、神々しいまでに、体現できる人なんだろう――。
 舞台を観ていて、…ああ、事故のとき、この人は死の淵まで行ったんだな…と感じた。死を見た人なのだ、と。だから、冒険物語の生と死の描写が、一段と深まっていた。――あと数センチ、ズレていたら、首が切断されていたかもしれなかったという話を知ったのは、その数日後のテレビ出演のときである。腕もちぎれていたかもしれなかった。そうしたら、出家しようと思っていたと。でも、そうはならなかったから、それは、役者を続けよということだと思ったと。そして、私が、…心の傷は大丈夫だろうか…と心配していたそのとき、彼は、周囲の人が、…事故は、自分のせいではないだろうか…と心に傷を負うことを心配していたのだった。優しい人。
 …嗚咽しすぎてお腹が減ったらしく、開演前にあんなに食べたにもかかわらず、休憩中に劇場の外に出て買ったかに道楽のかに寿司も、夜にはすっかり平らげてしまったあひるであった。そして、四代目の松竹座出演に合わせ、今年はさらに二回、今井でうどんを食べることができたのであった。うどんだけに、その話、長い。
 同じ時代を生きていることに、感謝。お誕生日おめでとう!
2018-11-26 00:01 この記事だけ表示