「譲ってもらうっていうのはどうだろう」
 悲願の1940年東京オリンピック実現に向け、イタリアの独裁者ムッソリーニから開催地を譲ってもらおうという奇策を思いついた嘉納治五郎先生(役所広司)。しかし、彼の身に異変が! 前回の終わりで、頭を押さえていたから、脳の方に何か…? と心配しており。…腰痛でした。持病の腰痛再発。ロス五輪でも背負い投げ、バッタバッタしてたものね…。「150歳まで生きるぞ! まだ折り返しだ!」と、担架の上で気焔を吐く嘉納治五郎74歳。ムッソリーニと会うため、ローマへと旅立つこととなった副島道正伯爵(塚本晋也)は「会えるかどうかもわからんのに!」と悲観的。イタリア大使杉村陽太郎の計らいあって、そこは会える、とまーちゃん(阿部サダヲ)――彼は、「田畑! 日本を頼んだぞ!」と、オスロ総会での最終スピーチの予定稿を、治五郎先生から託されていた。東京オリンピック決定の特ダネはうちで独占するぞ、との上司緒方竹虎(リリー・フランキー)の思惑により、まーちゃんのローマ同行、実現〜。
 1935年1月、雪降るローマ。「グラッチェ」とイタリア人のセニョリーナに明るく挨拶するまーちゃん。貴方のような人はどこに行ってもやっていけますな。副島伯爵とまーちゃんに、ムッソリーニは陽気な独裁者だと語る杉村。副島さんは武者震い――第三十三回『仁義なき戦い』。そして、扉が開く。そこには眼光鋭い陽気な独裁者が! 副島さん、その場で倒れる。――肺炎。「回復まで一カ月」の「一カ月」だけ聞き取れたまーちゃん、「余命一カ月ってこと?」と早合点。…笑ってる場合じゃない。でも。まーちゃんの芝居がおもしろすぎて笑ってしまう。
 タイトルバック!
 …あひるは当初、脚本の宮藤官九郎が大河ドラマという一年間のマラソンを走り抜けるのを“沿道”で応援しようと思っていた。それが、応援するうち、…いつの間にか、自分も一緒に走っていた。そして、走り出したら、そこには――そこにも!――本当に多くの仲間がいた。今も、大勢と一緒に走っている。私たちの生まれたこの世界を、国を、次世代へと手渡していくために。そのためにも、歴史から学ぶ。今この瞬間へと至る歴史から学ぶ。私が今年、『いだてん』という大河ドラマに見出しているのは、そんな意義である。今宵のタイトルバックに、そんな想いを新たにし。
 副島が倒れて来られなくなったと杉村が説明すると、ムッソリーニは「サムラ〜イ!!!」と両手を挙げて叫び、去っていく。そのリアクションの意味がいまいち解せない杉村。「ソヘジマタフレル」の電報に、「こうなったら私が行こうかね」とベッドから無理に立ち上がろうとする治五郎先生に、貴方は腰痛じゃなくて脊椎損傷! と告げるお医者さん(松重豊)。その顔、デジャヴ!
 生死の間をさまよった副島さん、何とか外出許可を得られるところまで回復。しかし、許された時間は30分のみ。「土下座も辞さない覚悟で」とまーちゃんにハッパをかけられ、いざ行かん! と思いきや。「(約束の時間まで)まだ15分あります」と杉村。「副島さん30分しかないのに」とまーちゃん←ここがあまりにおもしろすぎて、20時から2回目を観ているとき、やりとりの前から思い出し笑いでフライングで爆笑。笑ってる場合じゃないのですが。いや、塚本晋也演じる副島道正が、あくまで真面目で真剣であればあるほど逆に滑稽で…。コメディの醍醐味。
 日本がオリンピックに選ばれるまで帰らない覚悟です、譲ってくれたら、1944年にローマでオリンピックを開催できるよう、全力を尽くす、とムッソリーニに告げる副島さん。「Will you?」「Will you?」とムッソリーニ。独裁者の説得に成功! 会見、15分で終了〜。「え、早」とまーちゃん。副島さんの“カラータイマー”(ウルトラマンの10倍だ)がもってよかった!
「な、譲ってくれただろう」と、治五郎先生、ベッドの上でご満悦。「そろそろヤツを東京に呼び戻すときかもしれんぞ」と、日本開催に涙ぐまんばかりの可児さん(古舘寛治)に。「ヤツ? まさかスースーハーハー?」と可児さん――重なる金栗四三(中村勘九郎)のランニング姿。「オリンピックといえばあの男、ミスターマラソン、金栗四三!」と治五郎先生。
 ――そのころ四三は、故郷熊本で弟子の小松勝(仲野太賀)と共に走っていた。そして、田園風景の中で、看板を見つける。徐々に見えてくる文字、そこに書かれていたのは。
「カフェ ニューミカワ」
 ミカワ! しかも、ニュー!
 ↑ここも、二回目視聴時、先取り思い出し笑い。というか、もはや「美川」と聞くだけで笑ってしまうほど、勝地涼演じる美川秀信はキャラが立ちすぎている! 美川は、鉄道車両を転用したカフェを開いていたのだった。さすが流行りモノ好き(笑)。浅草でブロマイドを売っていて関東大震災に遭遇した美川は、ヤクザの女と大阪に駆け落ち、広島まで逃げ、山形に行き…と、その土地土地で覚えたとおぼしき方言を駆使しながら自分語り――それで『仁義なき戦い』なんですな。美川氏は小松くんに、「君の夢は何だね」と訊く。「オリンピックです!」と熱く語り出す小松くん。メダルを取りたい! …遮る美川。僕が君の夢について聞いたんだから、今度は僕の夢について聞く番! …美川。めんどくさすぎる。じゃあってことで、美川’sターン。夢は、「大陸逃避かな。満州だよ、これからは」だそうです。…美川。いかにも満州に行きそうな…。そして美川の話は「長くなりそう」という理由で音声途中で切れて割愛(笑)。
 ムッソリーニは説得できた。自信満々の杉村は、サングラスを颯爽とかけてオスロ総会に行く気満々だったまーちゃんを、副島さんの看病との名目でローマに居残りさせる。しかし。初めての総会。しかも、ただ一人の東洋人。「まいったな、河童の田畑でもいいから連れてくればよかったよ」と、五りん(神木隆之介)がその心の声、代弁。そこへ、“イタリアの嘉納治五郎”と称されるボナコッサ伯爵、到着。開会〜。
「おい、まだローマ(立候補地に)入ってるよ」(杉村心の声)
 杉村の動揺をよそに、ボナ公(←杉村の呼び方)、「(ローマでの開催に)絶大な自信をもっている」と堂々たるスピーチ。話、通ってないのか? 動揺のあまり、治五郎先生がまーちゃんに託した最終スピーチ予定稿を読むのをやめ、ムッソリーニが譲ってくれたと発言してしまう杉村。一同、ガヤガヤ。スポーツについては政治に口出しさせない! とボナ公。
「TABATA SUGU KOI」
 話が違うじゃないかと焦る杉村は結局、電報でまーちゃんをオスロに呼ぶのであった。責任を感じ、自分がもう一度ムッソリーニに会う! と立ち上がろうとする副島さん←無理です。じゃあ自分が! と、「ムッソリーニいる? 話したいの」と無謀にも押しかけるまーちゃん←無理です。っていうかまーちゃん、相手は陽気と言えども独裁者だから! やはりオスロに飛ぶことに。――一方、オスロの杉村は、イタリア公使ロドロを味方につけ、ボナ公を説得しようとしていた。字幕ばかりじゃなんでしょう、ということで、ここで、吹き替えスタート。ボナ公の声は、金髪のかつらまでかぶった五りんの兄弟子今松(荒川良々)が担当いたしまする〜。開催地に投票するのは委員であって首相じゃない! そんな杉村とボナ公の激論に、ロドロも加わり…と、ロドロの声で師匠志ん生(ビートたけし)登場〜。「地中海に沈めちゃうぞ」…この吹き替えシーン、最高でした。最後に師匠兄弟子五りん、三人そろって頭を下げるのも愛らしく。
 開催地投票日。
 IOC委員になって10年、オリンピックはスポーツマンシップによって支えられていると思ってきたが、もうそうではないようだ、不本意ながら、不本意ながら、イタリアは東京に投票する、と、ボナ公、無念で泣きそうなり。またもや一同、ガヤガヤ。「政治的圧力をIOCは認めるわけにはいかない」とラトゥール会長。杉村、大反論。しかし、かえって反感を買うばかり。「なぜカノーは来ないのか? なぜカノーは来ないのか? 彼が来たならこんな事にはならなかった」とラトゥール。――投票、延期。
 そこへまーちゃんが駆けつける。日本語交じりの英語で、帰り際の委員たちとコミュニケーション。――対比。多言語を駆使する杉村と、言葉はできないながらも何だかんだ言って世界の人たちとコミュニケーションを取るのがうまいまーちゃんと。杉村はまーちゃんに語る。日本への一票は嘉納治五郎への一票だった、と。まーちゃんは知っている。ロス五輪、嘉納治五郎に背負い投げされたい人で、長蛇の列ができる人気ぶりだったことを。「俺はイタリア語も英語もフランス語もできるが人望がない。嘉納治五郎にはなれん」と杉村。「なれんし、ならんでいいでしょう」とまーちゃん。「お前はなるよ」と杉村。「ごめんこうむるよ、あんな迷惑ジジイ」ってまーちゃん失礼だな。嘉納治五郎はお前を買っているからここに送り込んだんだと杉村。自分はただ、日本を頼むと言われたので、とまーちゃん。日本を、お前に? 高らかに笑う杉村。
 ――「投票延期」を告げる新聞記事を目にした治五郎先生は、恐る恐るベッドから立ち上がる。
 熊本。「美川と会いよっとね」と、四三に激怒するスヤ。あんなの友達じゃない、ゴキブリ、居候のろくでなし、貧乏神と、すごい剣幕。「美川が何をした?」と美川。スヤさん、昔は『坊っちゃん』のマドンナのようにさわやかだったのに…。そんな美川に四三さんはウィスキーを所望。スヤについて愚痴り出すからもう酔っぱらったのかと思いきや、飲む前にすでに酔っぱらい状態。そして、「俺は家出する」と――いや、家出って、貴方もう「不惑」の40過ぎですよね? だって治五郎先生から、東京にオリンピックが来るという手紙をもらってるし!
 東京市庁舎。東京市長・牛塚虎太郎は困っていた。――開催地、どうなるの? 私が肺炎になどならなければ! 副島さん、直立不動。貴方、治すために注射を300本も打ったじゃないですかと、かばうまーちゃん。そこへ治五郎先生が杖をついてやってくる。さすがにラこの身でトゥールに会いには行けない。そこで。「また極論なんだがね」「出たよ、治五郎の極論タイム」とまーちゃん。「こないだもこの時間だったよね?」――そうでした、まるで水戸黄門の印籠タイム(笑)。今回の極論は。ラトゥールを東京に呼んだらどうだろう。謝りついでに視察してもらおう。「治五郎っぽい」とまーちゃん。「治五郎っぽいって何だよ、私は治五郎だ」と治五郎先生――何だか、二人の、一筋縄では行かない師弟の如き絆を感じた今回。もうラトゥールに手紙、出しちゃったもんね。「ずうずうしいな」とまーちゃん。しかし、治五郎の手紙はラトゥールの心を動かし、彼は来日することに。「海を越えたジジイ同士の友情は侮れん」と言うまーちゃんに、日本に恩を売ろうというヒトラーの深謀遠慮が裏にあるのでは? と河野一郎代議士(桐谷健太)。オリンピックは盛大な運動会だ、とまーちゃん。いったいいつから、国の威信をかけてやる大事業になったんだろう。田畑さん率いる水泳チームが、ロス五輪でメダルをたくさん取ったからじゃない? とマリーママ(薬師丸ひろ子)。「違う、違うって、俺は」と言うまーちゃんに、いいじゃないか、オリンピックが決まればあと四年は戦争が起こらない、軍部への歯止めになる、と一郎代議士。
 招致委員会正式に発足。その記者会見で、こんな質問が出る。
「オリンピックはお国のためになりますか」
 まーちゃんに、高橋是清(萩原健一)の同じ質問がフラッシュバックする。まーちゃんの答えは同じである。なりません。
「国のためじゃない。若い者のためにやるんです」
 ――熊本。まだ暗いうち、「スヤへ」と書いた書き置きに押し花を載せ、金栗四三は家出しようとしていた。一方、若き日の志ん生こと孝蔵(森山未來)の暮らしもだいぶよくなって、ナメクジが出る長屋から引っ越ししようとしている。時は1936年2月26日。
「2月26日」
「2月26日」
 と、繰り返す志ん生。
 1936年2月26日。雪の朝。――そこに、軍靴の音が聴こえてくるのだった――。
2019-09-01 23:59 この記事だけ表示
 3月に雪組がシアターオーブにて上演した『20世紀号に乗って』は、ハワード・ホークス監督の映画『特急二十世紀』を基にしたブロードウェイ・ミュージカル。時は1930年代、今は落ち目の演劇プロデューサーと、彼の元カノである女優、彼女の今の恋人である俳優らが、シカゴからニューヨークへと向かう豪華列車「20世紀号」に乗り合わせて巻き起こる大騒動を描いたコメディである。シアターオーブでは海外ミュージカルの招聘公演が数多く上演されているが、雪組版『20世紀号に乗って』も、トップ・コンビ望海風斗&真彩希帆の図抜けた歌唱力、そして芝居心に富んだ雪組生&専科から参加の京三紗(裏ヒロイン!)の活躍によって、そんな海外ミュージカル公演の一つに接しているような感覚を覚えた。
 なおかつ、潤色・演出の原田諒は、今年105周年を迎えた宝塚歌劇団、その歴史にオマージュを捧げる趣向を凝らしていたのが実に心憎い。冒頭、パンツのサイドにラインの入ったポーター四人が登場する。それだけで、これは、宝塚歌劇が日本で初めて上演したレビュー『モン・パリ』(1927)のラインダンスのオマージュだ! と、心浮き立つものを感じる――『モン・パリ』では、パンツを汽車の動輪に見立てた、本邦初のラインダンスも大きな話題を呼んだ。宝塚で海外ミュージカルが上演される際、本編の後にショーがつくのも楽しみなところだが、この作品では、そのショーの部分で、トップ・コンビも加わっての大ラインダンスが披露された――そこに、宝塚のラインダンスの意味を見る思いがした。宝塚に入団した者は誰もが皆、ラインダンスからスタートする。一糸乱れぬ踊りは、全員で心を合わせてこそ可能となる。優れたトップスターほど、組を率いる箇所と、組の中の一人に戻る箇所と、その切り替えが上手い――そのことを私は、退団し、女優となってからの元トップスターの舞台からも、よくよく学んできたように思う。この場面では真ん中としての役割を果たす。この場面では組の、舞台の一員に戻る、その切り替えがつまりは上手いわけである。私は、望海風斗がそのようなトップスターへと躍進したことを、心からうれしく思った。もともと高かった歌唱力にぐんと包容力が加わり、厚みが増した。相手役の真彩希帆も歌声に艶が出て、ショースターとしても健闘。コメディ作品も行けるコンビであることを大いにアピールした。
 東京宝塚劇場公演『壬生義士伝』は、浅田次郎の同名小説が原作である。浅田作品ではコメディタッチの『王妃の館』(2017)が宝塚でも上演され、客席を爆笑の渦に巻き込んだが、制作発表会での浅田氏の話によれば、『王妃の館』と、幕末の下級武士の悲劇を描く『壬生義士伝』は同時進行で書かれた作品であるとのことで、一人の作家の中に渦巻く内的世界を知る上で非常に興味深いものがあった。望海が演じる吉村貫一郎は、貧困に苦しむ家族を救うため、盛岡の南部藩から脱藩して新選組に加わり、家族を養うために人斬りを続ける――という役どころである。故郷への想い。家族への想い。望海が歌う主題歌を聴いていると、――私自身のルーツの一つでもある東北という地方、その厳しい自然、そこに生きる人々の忍耐強さに自然想いが飛んでゆく――私の母方の祖父の家も、もともとは武士であったのが、どこかの段階で足袋職人へと転じたそうである――。のだが。脚本上、主人公の生き様、その一貫性が少々わかりづらく…。雪組生は日本物作品に強いところを見せていただけに、残念に思った。専科から出演の凪七瑠海も、同期の望海と絡まない役どころだったのがもったいないような…。円熟期にある男役二人の芸のぶつかり合いを見たかった。真彩は、南部に残った吉村の妻と、新選組隊士となった吉村を見初める京都の大店の娘、つまりは吉村を取り合う者同士に挑戦。辛抱強い女性と、勝ち気な女性、二役の演じ分けで力を発揮した。ショー『Music Revolution!』はエネルギッシュなダンスシーン満載。黒燕尾服の踊りもびしっと揃うところは雪組ならでは。
 昨年あひる新人賞堂々受賞の真彩希帆だが。舞台人として、…今、若干迷いの時なのかな、と感じる。それでいいと思う。迷って、あれこれ試して、その中に自分の道を見出していけばいい。雪組全体としては、『ファントム』のころと比べて、かなり迷いが消えてきた。みんな、技術は高いのだから、それをどう活かしていくか、自分自身のその試行錯誤の中にこそ、今後の明るい展望がある。大丈夫! 立派なトップスターとなった今の望海風斗なら、全員まとめて受け止められる!
2019-09-01 00:00 この記事だけ表示