『I AM FROM AUSTRIA』は、オーストリアの国民的シンガーソングライターであるラインハルト・フェンドリッヒの楽曲を用いたジュークボックス・ミュージカルである。しかし、残念ながら、もともとの曲を知っている日本人は少ない。そんな作品の、オーストリア以外の国での初めての上演に、宝塚月組が堂々挑んでいる。
 ウィーンを舞台にした“おらが町”ミュージカルでもある。ウィーンという街の楽しさを存分に伝えながら、――作品には、宝塚歌劇の魅力がはちゃめちゃに詰まっている。ウィーンの話なのに、みんなで華やかににぎやかにラテンのリズムで踊り狂うこととなるシーン、その疾風怒涛のカオス的な魅力に、――ああ、宝塚のこのアナーキーな楽しさを世界中の人々と分かち合いたい! と、エンジョイしすぎてあひる涙。潤色・演出を手がけた座付き作家・齋藤吉正の、音楽を扱うあざやかな手腕と、宝塚の魅力をこれでもかとてんこ盛りにしてくる愛情深さが光る。“芝居の月組”ならではの軽妙な掛け合いも大いに見どころ。いったい誰が“心のキャラ”に輝くのか、心中熾烈なデッドヒート。
 海外ミュージカル作品において、ヒロインを演じるトップ娘役には、ときに大いに負担がかかったりする。キャラクター的に、宝塚の娘役の領域を踏み越えていかなくては演じられなかったりするからである。今作のヒロイン、故郷オーストリアを捨て、ハリウッドでスター女優となったものの、自分自身を見失いつつあるエマ・カーターもそんな役柄の一つである。そして、美園さくらは、緊張感をもって役柄をしっかり演じ、トップ娘役としての責任を果たしたい! と謙虚に頑張れば頑張るほど、どんどん世界へと大きくはみ出していってしまう人なのである――雪組トップ娘役真彩希帆と二大面白エース。ウィーンの街自体が影の主役で、その故郷においてヒロインが自分を取り戻していく話なのだから、ヒロインが生き生きしていなければこの作品はそもそも生き生き成立しない。だから、それでいいのである(今日のGPでは、セリフ回しの音程が若干安定していないように感じられたので、そこは要改善)。
 珠城りょうは、世界に唯一無二の劇団であり、たった五組しかない宝塚歌劇団のトップスターを三年間きっちり務めてきた自信をもって、美園演じるエマをはじめ、周りの濃ゆいキャラクターたちを受け止めれば大丈夫! 誰がどう来ようが、とにかく受け止め続ける! そうしてどんと構えていれば、これまで以上に揺るぎない包容力が必ずやそこに宿る――雪組トップスター望海風斗も、面白すぎる真彩を受け止め続けているうちにどんどん男役芸が伸びていっている。ここは男役芸を大いに伸ばすチャンスである。珠城演じる老舗ホテルの御曹司ジョージが、終盤、銀橋でヒロインにかける言葉の中に、…これは、あひるもぜひかっこよく決めてみたい! と思う、とても素敵なセリフがあり。宝塚の男役になりたかった…という願いを露わにするたび笑われがちなあひるであるが、先日レーダーも壊れてパワーアップしたことだし、評論家としての幅をさらに広げるため、これからは内なる男役も磨いていくことにする!
2019-11-29 22:41 この記事だけ表示