イギリス王室から事実上離脱することになったヘンリー王子が、スピーチの場で、無念の心境を吐露…のニュース映像を観ていて、思い出す。宝塚月組元トップスター霧矢大夢の退団公演『エドワード8世−王冠を賭けた恋−』(2012年。作・演出は、現在、東京宝塚劇場にて上演中の宙組公演『El Japón(エル ハポン)−イスパニアのサムライ−』担当の大野拓史)のクライマックスで歌われるナンバー「退位の歌」を。――イギリス国王エドワード8世は、離婚歴のあるアメリカ人女性ウォリス・シンプソンとの恋を選んで、王位を退く。最後の瞬間になってやっと率直な気持ちを表明することが許され、ラジオを通じて国民に語りかける、その心境を歌うドラマティックなナンバーである(作曲は太田健)。この舞台の公演プログラムにも寄稿している政治学者水谷三公が執筆した『イギリス王室とメディア エドワード大衆王とその時代』は、『エドワード8世』の作品世界を楽しむ上でも非常に興味深い著書であったが、エドワード8世の退位を受けてその弟ジョージ6世が国王の座に就き、そのジョージ6世の娘であるエリザベス2世が孫のヘンリー王子に対して決断を下した今、歴史書を超えてアクチュアルな一冊として立ち現れる。ちなみに、『エドワード8世』においては「退団」と「退位」とが重ね合わされて語られている部分があり、「退位の歌」の歌詞にも、これから新たな世界で生きていこうとする者の未来に対する愛とエールとが存分に込められていて、今なお、聴く者の心を揺さぶらずにはおかない。
2020-01-20 23:12 この記事だけ表示
 1月20日13時の部、日生劇場。メアリー・シェリーのゴシック小説を独自の視点で再構成した韓国ミュージカル、その日本版の再演。軍医アンリ・デュプレと怪物を演じる加藤和樹が実にいい。アンリは戦場で科学者ビクター・フランケンシュタイン(柿澤勇人)に命を助けられ、固い友情で結ばれる。母の死以来、死者を甦らせることに取りつかれた友ビクターの“実験材料”となるべく、アンリは友の罪をかぶってギロチンで処刑される――だが、その生首を用いてビクターが生み出したのは、アンリの記憶をもたない怪物だった。ビクターのもとを逃げ出した怪物は、闇の闘技場で見世物としてひどい扱いを受け、おぞましい人間こそが怪物ではないかとの哀しき認識に至る。アンリが友ビクターに捧げる友情はいささかファナティックなものではあるのだが、加藤アンリは実に純粋なその友情のありようをさわやかに歌い上げて殉じていく。怪物となり、うす汚れた半裸姿でうなり声を上げて暴れていても、人間存在に激しく絶望しても、その姿にはどこか哀しい美しさがある。加藤は、昨年秋、難役である『ファントム』タイトルロールに挑戦、怪人の心の中の美を表現する好演を見せていたが、その経験を経て、舞台姿に自信の芯が一本ぐっと通ったように感じられる。孤独なビクターに愛をもって仕え続ける執事ルンゲ役の鈴木壮麻の、あくまで品よくチャーミングに効かせる笑いは、作品全体の軽やかなアクセント。リトル・ビクター(ビクターの子供時代)を演じる大矢臣(子役)の、客席へとまっすぐ向かってくる歌唱と演技も堂々たるものだった。
2020-01-20 23:06 この記事だけ表示