12時の部観劇(明治座)。原作:北条司『CAT’S♥EYE』、脚本:岩崎う大(かもめんたる)、演出・共同脚本:河原雅彦。ご存じ怪盗キャッツアイ三姉妹、明治の時代に大暴れ! 創業150周年の明治座と、そこに集う観客への思いにあふれた作品。宙乗りありで劇場機構もあれこれ駆使され、演劇のお約束、“嘘”を遊び倒した感もあり、ラスト近くの怒涛の展開にとりわけ大笑い。同じ北条作品の舞台化である宝塚雪組『CITY HUNTER−盗まれたXYZ−』(2021)の脳内お花畑を具現化したようなシーンを思い出すおもしろ場面も。
 『RRR × TAKA"R"AZUKA 〜√Bheem〜』(Based on SS Rajamouli’s ‘RRR’.)は、S・S・ラージャマウリ監督の世界的大ヒット映画『RRR』が原作(脚本・演出:谷貴矢)。実在の独立運動指導者コムラム・ビームとA・ラーマ・ラージュを主人公に、二人がイギリス領インド帝国に戦いを挑んでいく物語を、宝塚版ではビーム視点で再構築。シャーロック・ホームズ・シリーズの作者アーサー・コナン・ドイルを主人公に据えた雪組公演『ボイルド・ドイル・オンザ・トイル・トレイル−Boiled Doyle on the Toil Trail−』が大英帝国の光の部分を描く作品ならば、続いての星組公演は大英帝国の負の部分に光を当てる作品である。宝塚大劇場公演の初日が開いてすぐ観る機会があり、……こんなにも重いテーマを扱い、歌と踊りをふんだんに盛り込んだ作品を、年明け早々このクオリティで上演するんだ……と、正月気分が吹っ飛んだ。大劇場での一カ月ほどの公演を経ての東京宝塚劇場公演はますますパワーアップ。実際の歴史においては出逢うことのなかったコムラム・ビーム(礼真琴)とA・ラーマ・ラージュ(暁千星)が運命的な出会いを果たし、それぞれの使命と友情との間で揺れる、そんな人間模様があざやかに描き出される。映画で大人気を博した「ナートゥ・ナートゥ」のダンス・シーンも、抑圧からの解放を目指して立ち上がる強い思いがこめられているからこそ熱く激しく盛り上がる、そんな物語上の重要性をきっちりと踏まえて踊られているのがすばらしい。
 大劇場で舞台を観た際、新宿中村屋のインドカリーのキャッチフレーズが「恋と革命の味」であることを思い出した。ビームやラーマより少し上の世代の独立運動家だったベンガル生まれのラス・ビハリ・ボースは、インド総督への襲撃事件をきっかけにイギリス政府に追われる身となり、日本に密入国して武器を祖国へと送る。日本政府からも国外退去命令を受けるが、中村屋の創業者夫妻が彼をかくまい、夫妻の娘とボースは後に結婚。そして、本場のカリーを日本に紹介したいとのボースの願いから中村屋名物インドカリーが生まれ、今日に至るまでその味を伝えている。子供のころから親しんでいて、今でも月に一度は食べに行く、その味の背景にある物語を思った。
 『VIOLETOPIA』は作・演出の指田珠子の大劇場デビューとなるレビュー。廃墟となった劇場が、そこに棲まう記憶と共に甦り――。劇場に在るのは幻! 虚構! とこれでもかと提示され、じらしありずらしあり、客席降りで盛り上がる中詰め使用曲の原曲は、熱狂的なファンに対するどこか冷やかな目線の歌詞が印象的な、フランスのバンド、フェニックスの「リストマニア」(“リストマニア”=作曲家フランツ・リストの熱狂的なファンの意。2022年に上演された宝塚花組『巡礼の年〜リスト・フェレンツ、魂の彷徨〜』にも“リストマニア”が登場していた)。それでも拍手と手拍子を送ってしまう劇場好きとは随分と被虐的であることよ……と自嘲したくなるようなせつなさを覚える、そんな毒がどこかたまらない作品。星組の今の充実ぶりがうかがえる、見応えありの二本立て。
 まひろ(吉高由里子)に広い世界について語る直秀(毎熊克哉)の声が聴いていて心地よい。そして藤原兼家役の段田安則は、前々から思っていたのだけれども声の震わせ方が絶妙。兼家が倒れ、対策を練る兄の道隆(井浦新)に詮子(吉田羊)がピシッと意見を言うのが小気味いい。
 家を訪ねてきた藤原道兼(玉置玲央)に琵琶を弾いて聞かせるまひろ、その音色から伝わるもの。
 本日昼の12時47分に一つ歳を重ねました。今この時代に生きているからこそ出逢える人々、実際に見聞きできること――。これからも新しいことにいろいろチャレンジしていきたいと思っています。最近では編み物を始めたり、伝統工芸における技術の伝承に興味が湧き、ワークショップに参加したり。昨年ゆかたを着られるようになったので、着物も着られるようになりたいなと準備中。年明けすぐの関西観劇旅行話や先日のラジオ出演の補足などいろいろ書けておりませんが、ゆっくり取り組んでいきたく。
 十八世中村勘三郎の舞台から受け取った多くの幸福感に、さらに幸福感が積み重なっていって、歌舞伎の観客でよかった! と心身共にほこほこするような夜でした。

(16時半の部、歌舞伎座)
 13時の部観劇(パルコ劇場)。原作はパトリック・ネスの同名小説(原案=シヴォーン・ダウド)。脚色=サリー・クックソン&アダム・ペック&オリジナル・カンパニーで2018年にイギリスで初演された舞台を、初演と同じサリー・クックソンの演出、日本人キャストで日本初上演。末期ガンの母(瀬奈じゅん)をもつ13歳の少年コナー(佐藤勝利)の前に現れるモンスターを演じるのは山内圭哉。その淡々としたありようが、物語における日常と非日常とをよく溶接していると感じた――ときに笑いを誘う瞬間も。物事には多角的な見方があるという示唆がなされるこの物語のために創られた手法――例えば、吊り下げてある何本ものロープを一本のロープで束ねることによって、作中大きな意味をもつイチイの木が表現される――が非常に印象的。これまで生きてきた中で死によって失った数多の人々に思いを馳せるラスト。
 『源氏物語』の有名なエピソード、<帚木の巻>の“雨夜の品定め”(光源氏や頭中将たちが女性の品定めをする場面)につながるのであろうシーンが登場。イギリス公演もあった彩の国シェイクスピア・シリーズ第25弾『シンベリン』(2012)の第一幕第五場、さまざまな国の男たちがそれぞれの国の女性自慢をするシーンを、蜷川幸雄がこの“雨夜の品定め”の場面の『源氏物語絵巻』を背景に登場させて演出したことも思い出し、現存する世界最古の長編小説とされるこの作品を日本女性である紫式部が書いたこと、そして彼女の生に改めて思いを馳せた。
 ぞっとするほど美しい女(中村七之助演じる兵庫屋八ツ橋。難しい役)と、はっとするほど美しい男(片岡仁左衛門演じる繁山栄之丞。三幕目第一場から第二場へと盆が回る、その刹那に見える背中の色っぽいこと)と。その間に図らずも割り込む形となってしまった男、佐野次郎左衛門を演じる中村勘九郎の、……何だか今までに観たことのない人のようにさえ見えた、終幕の凄まじい表情。

(11時の部、歌舞伎座)
 TBSラジオ「エンタメ満載! ここだけの話」(21:45〜22:00予定)に、2月17日と24日の2回にわたって出演します。テレビは何度か出演したことがありますが、ラジオは初めて。パーソナリティの山内あゆアナウンサーと楽しくお話しさせていただきました。
 18時の部観劇(東京芸術劇場プレイハウス)。愛や性といった個人的営みのありようと時代時代における社会とが深く関わっていることが細やかに書き込まれていて、本当におもしろい戯曲。であるからこそ、ニューヨークのゲイ・コミュニティにおける人間模様をメインに据えながらも、最終的には、人が生まれ生きていく中で果たしていく使命について、次世代に継承していくものについて、広く示唆を与える物語となっている。最後は……この人々との時間がこのまま終わってほしくない……という思いに駆られた。前篇3時間、後篇3時間半の価値は大いにあり、お勧め。