藤本真由
(舞台評論家・ふじもとまゆ)
1972年生まれ。
東京大学法学部卒業後、新潮社に入社。写真週刊誌「FOCUS」の記者として、主に演劇・芸能分野の取材に携わる。
2001年退社し、フリーに。演劇を中心に国内はもとより海外の公演もインタビュー・取材を手がける。
ご意見・お問い合わせ等は
bluemoonblue@jcom.home.ne.jp まで。
宝塚星組『JAGUAR BEAT−ジャガー・ビート−』(2022−2023、作・演出:齋藤吉正)でもっとも印象に残る二大フレーズと言えば、「♪Beat! Beat! Beat! Beat! Beat! Beat!」(曲「JAGUAR BEAT」より)と♪「マジ! マジ! マジック!」(曲「CRYSTAL FANTASY」より)であろう(作詞はすべて齋藤吉正による)。オープニングから頻出する前者の「ビ、ビ、ビ、ビ、ビ、ビ」という音の連なりは、運命的な出逢いの瞬間を表す「ビビッとくる」を連想させる。後者は中詰以降に登場するが、英語で言うなら”Really?”あたりのスラング的表現である「マジ」と「マジック」の音がかかっていて、敢えて言い換えるなら「ホントに魔法みたい!」くらいのニュアンスか。「♪偽りに抱かれた/終わることのないブラックシーズン」が「♪マジ! マジ! マジック!」で「♪終わることないドリームシーズン」へと変容するわけである。
この曲「CRYSTAL FANTASY」は中詰開始と共に始まり、第12場において歌い継がれていく。そして、第12場Dで「赤の神」に扮した薄いピンクの衣装の天華えまが登場し、「マジ! マジ! マジック!」と歌い出すのだが、肩から力の抜けた洒脱な感じの彼女が、その歌声とたたずまいで舞台の雰囲気を変えていくのが非常によかった――齋藤吉正の大劇場デビュー作『BLUE・MOON・BLUE−月明かりの赤い花−』(2000)のフィナーレの銀橋歌い継ぎにおいて、濃いピンクの衣装の初風緑が、その歌声で「♪大空舞うよ あふれ出す愛」と劇場を明るい空気で包んでいったことが心に深く刻み込まれているのだけれども、それと双璧を成す瞬間。そして、銀橋上の天華の振りと共に振り落としが行なわれることは、昨年のKバレエ トウキョウ『くるみ割り人形』の記事においてすでに記した(http://daisy.stablo.jp/article/501911787.html?1712316284)。振り落とされた幕の向こうに現れるのはJAGUAR(礼真琴)である。
退団公演となる『RRR × TAKA"R"AZUKA 〜√Bheem〜』で天華が演じたのは、礼真琴演じるビームのよき仲間であるペッダイヤ役。レビュー作品『VIOLETOPIA』における退団の餞の場面「エントランス・ノスタルジー」では、トレンチコートに颯爽と身を包み、劇場において過ごした日々を愛おしむように、「As Time Goes By」を甘やかなムードいっぱいに歌う。男役としてのスマートな魅力があふれる瞬間。
『ME AND MY GIRL』(2023)で演じたジェラルド役で発揮したような、とぼけたキュートさも味わい深かった。退団を惜しむ。
この曲「CRYSTAL FANTASY」は中詰開始と共に始まり、第12場において歌い継がれていく。そして、第12場Dで「赤の神」に扮した薄いピンクの衣装の天華えまが登場し、「マジ! マジ! マジック!」と歌い出すのだが、肩から力の抜けた洒脱な感じの彼女が、その歌声とたたずまいで舞台の雰囲気を変えていくのが非常によかった――齋藤吉正の大劇場デビュー作『BLUE・MOON・BLUE−月明かりの赤い花−』(2000)のフィナーレの銀橋歌い継ぎにおいて、濃いピンクの衣装の初風緑が、その歌声で「♪大空舞うよ あふれ出す愛」と劇場を明るい空気で包んでいったことが心に深く刻み込まれているのだけれども、それと双璧を成す瞬間。そして、銀橋上の天華の振りと共に振り落としが行なわれることは、昨年のKバレエ トウキョウ『くるみ割り人形』の記事においてすでに記した(http://daisy.stablo.jp/article/501911787.html?1712316284)。振り落とされた幕の向こうに現れるのはJAGUAR(礼真琴)である。
退団公演となる『RRR × TAKA"R"AZUKA 〜√Bheem〜』で天華が演じたのは、礼真琴演じるビームのよき仲間であるペッダイヤ役。レビュー作品『VIOLETOPIA』における退団の餞の場面「エントランス・ノスタルジー」では、トレンチコートに颯爽と身を包み、劇場において過ごした日々を愛おしむように、「As Time Goes By」を甘やかなムードいっぱいに歌う。男役としてのスマートな魅力があふれる瞬間。
『ME AND MY GIRL』(2023)で演じたジェラルド役で発揮したような、とぼけたキュートさも味わい深かった。退団を惜しむ。