藤本真由
(舞台評論家・ふじもとまゆ)
1972年生まれ。
東京大学法学部卒業後、新潮社に入社。写真週刊誌「FOCUS」の記者として、主に演劇・芸能分野の取材に携わる。
2001年退社し、フリーに。演劇を中心に国内はもとより海外の公演もインタビュー・取材を手がける。
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第二次世界大戦後、歌舞伎の劇場を誘致しようと「歌舞伎町」の名前をつけたけれども、実現はしなかった。そんな新宿歌舞伎町での歌舞伎の公演、「歌舞伎町大歌舞伎」をTHEATER MILANO-Zaにて観劇(12時の部。昼夜同一狂言)。舞踊『正札附根元草摺』『流星』と、落語『貧乏神』を題材にした新作歌舞伎『福叶神恋噺』というラインアップ。雷一家の四人を瞬時にコミカルに踊り分ける流星役の中村勘九郎を観ていると、幸福感がふくふくと心に満ちてきて。ぐうたら男(中村虎之介)に恋してしまい、彼にせっせと尽くす『福叶神恋噺』の貧乏神おびんに扮した中村七之助のいじらしさ――“びんちゃんびんちゃん”呼びに、同じく落語が原作で、貧乏神のびんちゃんも登場する宝塚星組『ANOTHER WORLD』を思い出し。歌舞伎町での上演ということで、ホストクラブのシャンパンタワーならぬ“味噌汁タワー”が登場したり、時事ネタ、ご当地ネタの入れ方も楽しく品よく。貧乏神すかんぴんに扮した勘九郎の芸のキレのよさに、……この人はこういう凄みをもった役者になっていくんだな……と。そして、歌舞伎の劇場が誘致できていたら、歌舞伎町はどんな街になっていたんだろう……とふと考えたり。未だに足を踏み入れるときちょっとドキドキしてしまう歌舞伎町ですが、THEATER MILANO-Zaに歌舞伎を観に行ってよかった! としみじみ思える公演。