……この孤独を、内から少しでも漏れ出させるわけにはいかない、そんな覚悟を感じた、市川團十郎の幡随院長兵衛役の演技。

(5月22日11時の部、歌舞伎座)
 じわじわ心にしみてくる『和田合戦女舞鶴』<市若初陣の段>。今ここに生きて在ることへの感謝の念が湧き上がってくる『近頃河原の達引』<堀川猿廻しの段>。

(5月20日16時半の部、シアター1010)
 藤原兼家役段田安則、赤くなっていく月を見上げる表情がすさまじい。そして、死す――兼家を呪詛する源明子(瀧内公美)、怖い。
 字の読めない女の子に字を教えるまひろ(吉高由里子)――自分の生きるエネルギーを持て余しているような。
 藤原兼家役段田安則の、正気を失っていく演技がすごい。
 まひろが書いた文(女ながらに漢詩)を、道長(柄本佑)の文箱から倫子(黒木華)が見つけてしまうという流れが、物語上巧い。
 藤原道長役の柄本佑の演技に、――彼の父、柄本明味を感じる瞬間があり。
 労働で汗を流すまひろ(吉高由里子)の姿、いい。
 まひろに結婚を告げて、「妾でもよいと言ってくれ」という道長の心の声は、甘えのような……。そして、「妾でもいい」と思ってはいても、男の方から先に結婚すると言われてしまえば、女のプライドとして、「妾でもいいです」と自分からは言えないような……。