今夜のサヨナラ勝ちは涙が出そうにうれしかった。
 というわけで、今シーズンは阪神タイガースの試合を中心に野球を楽しんでおり。日本野球の応援歌と歌舞伎の大向う(掛け声)に共通する効果に気づいたり、発見や学ぶこと多し。
 <新町井筒屋の場>の上演。中村鴈治郎は、ときに素なのかアドリブなのかわからないような演技をキレッキレに披露するところが魅力なのだけれども、亀屋忠兵衛役でもそんな魅力が存分に味わえて。この場面で、忠兵衛は実にさまざまな嘘をつく。その嘘一つ一つの背景にあるさまざまなもの――懐にしている公金が本当に自分のものであったらいいのに……という哀しい夢や、極限状態まで追いつめられた人間心理等――を、鴈治郎の演技はていねいに描き出してゆく。そうしてあれこれ積み重ねられた果ての、――もはや死ぬしかない、という(忠兵衛にとっての)現実。どうにも思いのやりどころがなくて、泣くほかなかった。――公演中ずっと、彼の亡き父の巨大な顔が、はっきりくっきり浮かんでいた。かつて歌舞伎座で感じたときのように重いと思うことはなくて、ただ、空気の中に透明に溶け込んだように、でも、確かに存在していて、――それが芸の伝承ということなのかもしれない、と思って観ていた。実に純粋な時間を過ごして、魂がすっきり洗われたような。

(14時半の部、サンパール荒川大ホール)
 チャールズ・ディケンズの長編小説『大いなる遺産』が原作。登場人物の性格も変わりかねない物語変更がある中、星組生たちはよく頑張っている。主人公ピップを演じる暁千星は、子供時代を演じる場面はないものの、どこか途方に暮れて膝を抱え座っている少年の面影を常に感じさせるような演技が魅力。ディケンズの原作の言葉そのままのセリフを口にしたとき、観る者の心に迫るものがある。フィナーレのソロダンスでは空を貫く彗星の如き輝きを見せた。温かみあふれるピップの義兄ジョー・ガージェリー役の美稀千種、ワイルドに一途な脱獄犯エイベル・マグウィッチ役の輝咲玲央が物語をがっちり固め、ピップの親友ハーバート・ポケット役の稀惺かずともさわやか。舞台版でさらに難易度増したミステリアスなヒロイン、エステラ役の瑠璃花夏も健闘している。天飛華音がピップの恋敵であるベントリー・ドラムルと、ピップの心の中にひそむ“闇”を一人二役で演じているが、作劇及び演出上、現在と回想、現実と夢との区別のつけ方がうまく行っていないこともあり、難しい役どころとなっている。
 観劇にあたり、初めて原作を読んだのだが(加賀山卓朗翻訳の新潮文庫版)、ページをめくる手が止まらないおもしろさ。ディケンズの人間存在や社会のあり方に対するまなざしに心打たれた。「つまり、人生をつうじて、私たちの最悪の弱さや卑しさは、もっとも軽蔑する人がいることで表に出てくる」(新潮文庫版上巻373ページ)の一節の鋭さ。
 6月12日15時の部観劇(立川ステージガーデン)。スケート靴を履いたままのエアリアル、タップダンス、コンテンポラリーダンスとさまざまな身体表現に挑みながらも、最終的にはフィギュアスケートへと立ち戻ってゆく。そして、新たな挑戦がまた、彼女のフィギュアスケートを豊かなものにしていって。フィギュアスケートって何だろう、そんな問いを真摯に探究し続ける浅田真央の旅路が心を満たしてゆく2時間。充実した内容のショーでした。16日の千穐楽公演はライブ配信あり。赤いバラを手にした田村岳斗にもご注目を!
 スピードがあって見応えあり。上田綺世の軽やかヘディング(1点目)。堂安律、綺麗にトリッキー(2点目)。相馬勇紀、ピシャっとペナルティ・キック(4点目)、そしてハッスル。たぎる男南野拓実(5点目)、活躍するとおもしろい。久保建英を観ているとやっぱり楽しい! そして冨安健洋が頼もしかった。
 ……ロンドンでも東京でも何度も観ていて、オチも知っているのに、何でこんなに怖いんでしょう、このホラー作品。「演劇です」ということが前半であんなにも念押しされるのに、それでも(とりわけロッキングチェアが怖い)。舞台の魔法について改めて考えたくなる作品。題材的に、宝塚月組『Eternal Voice 消え残る想い』にも通じるところがあり(こちらは幽霊もので、あちらはサイコメトリーですが)。そして、幽霊話に出てくる夫人が『大いなる遺産』のミス・ハヴィシャムっぽいな……と思っていたら否定形なれどミス・ハヴィシャムへの言及あり。

(6月11日13時、パルコ劇場)
 ウィリアム・シェイクスピアの『夏の夜の夢』を原作に、串田和美が脚色・演出・美術を手がけ、7名のキャストと共に出演する本作。串田演じるパックは、肩の力が抜けていて遊び心自由自在な様がチャーミング。メタ構造がおもしろい『夏の夜の夢』の戯曲のセリフの一節を、「この作品はフィクションです」のお断りテロップ風にフォーカスしたりする瞬間も興味深く。串田が何度か繰り返すモノローグの中の情景に、ベルギー・シュルレアリスムのルネ・マグリットの絵画を思い出したり。

(6月10日19時の部、新宿村LIVE)
 受け継がれてきたものに思いを馳せながら観ていたら、曲やセリフなど今までと違う角度から受け止められるようになり、次回雪組公演『ベルサイユのばら−フェルゼン編−』を観るのがますます楽しみに。非常に盛りだくさんの公演でした!
 振り返り映像での初演時のパフォーマンスも、そして今現在のパフォーマンスも、初演出演のレジェンドたち、すごい……とときに涙しながら観ており。そしてレジェンドたちと共に「愛あればこそ」を歌う『ベルサイユのばら』作・演出の植田紳爾(御年91歳)というスペシャルな瞬間が観られた! 久しぶりに『ベルサイユのばら』にふれて、いろいろと気づきあり。
 『ベルサイユのばら50〜半世紀の軌跡〜』東京公演千秋楽ライブ配信観ます。楽しみ。