作品のナンバーを歌っていくライブ・バージョンでの上演。三上博史は『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』日本初演(2004。翌年再演)でヘドウィグ役を務めている。その舞台を観劇したとき印象に残ったことを思い返しながら観ていて、……この20年、この人は闘ってきたんだな……と思った。
 プラトンの『饗宴』におけるアリストパネスのエロスに関する主張がベースであり、この作品の中核となっている「The Origin Of Love」――人には、引き裂かれた相手がいる――のナンバーは、完全な自分へと戻るために表現という手段を模索する、そんな風に歌われていた。「Wig In A Box」のスウィートさ。「Midnight Radio」の自由さ。曲のアレンジもよかった。何だかときどき日本の歌謡曲に通じるような魅力もあって、でも、ベタにならないところで成立しているような。
 三上博史は寺山修司に見出されてこの仕事に就いた人である。歌っていて、ちょいちょい寺山修司風味が顔を出して、……そんなヘドウィグが聴けるのも、日本ならではだな、と。そして、彼の出演舞台で忘れられないのが、ジョン・フォードの戯曲を蜷川幸雄が演出した『あわれ彼女は娼婦』(2006)。その舞台を観て、私は、……今なお世間や社会に対してこんなに激しく憤りを燃やしているのか! と、演出家の愛の深さに驚いたのだけれども、なかでもその憤りを託されていたのが、ジョバンニ役を演じた三上博史だったんだな、と。
 ちなみに、先日のインタビュー(https://spice.eplus.jp/articles/333072)のとき、私は、……橋本治の『恋愛論』みたいだな、と思いながら話を聞いており――『恋愛論』も講演がベースで、「大丈夫」と伝えたいという趣旨の発言が出てくるのでした。

(11月29日19時の部観劇、パルコ劇場)
 掲載されています。

https://spice.eplus.jp/articles/333337

 狼と山羊が食うか食われるかの関係を超えて仲良くなる、そんな物語のロングセラー絵本が原作。以前、演劇集団・円こどもステージで上演された舞台を観たとき、よい子の皆さんより先に涙してしまった(笑)あひる、歌舞伎版が楽しみ。
 指揮=大野和士、演出・美術・衣裳=ヤニス・コッコス、合唱=新国立劇場合唱団、管弦楽=東京フィルハーモニー交響楽団。ジョアキーノ・ロッシーニの最後のオペラ作品を日本で初めて原語で舞台上演。輝かしく美しい音楽が堪能できると共に、歴史と思想史を伝え、現在、未来を考える手がかりと成し得る、そんなメディアとしての舞台芸術、オペラの可能性に改めて目を拓かれる舞台。あまりに有名な序曲が何だか挽歌のようにも聴こえ――文化や時代に終止符を打つ歴史上のさまざまな出来事について思いを馳せ。“森”がもつ文化的、民俗学的意味合いについても考えた。第二次世界大戦下における日本とアジア諸国の関係性、第二次世界大戦後のアメリカと日本の関係性が鏡合わせのように見える瞬間もあった。知性と感性に訴えかけるバランスがよくとれていて、今後新国立劇場オペラハウスにおいて長く上演されていってほしいプロダクション。

(11月26日14時の部、新国立劇場オペラハウス)
 久保建英(ヒゲ、似合う。宝塚星組『RRR × TAKA"R"AZUKA〜√Bheem〜』A・ラーマ・ラージュ役の暁千星のヒゲ姿を思い出し)のコーナーキックから小川航基がヘディングで先制点! ――心を射抜かれ余韻しばし。2点目も伊東純也のコーナーキック→町田浩樹→板倉滉の流れがあざやか。伊東純也のアシストからの小川航基のヘディングの3点目も華麗でした〜。
 ソポクレスのギリシャ悲劇『オイディプス王』『コロノスのオイディプス』『アンティゴネ』を再構築した三部仕立ての作品(構成・上演台本・演出=船岩祐太)。一つの作品を長期的に育てていく新国立劇場の「こつこつプロジェクト」から生まれた舞台で、じっくり時間をかけた物作りのよさを味わえる。モダンな衣装と舞台装置でのわかりやすい展開で、ギリシャ悲劇により親しむ上で意義深い作品。あまり上演される機会のない『コロノスのオイディプス』にあたる『U』がとりわけおもしろく、『オイディプス王』の後日談かつ『アンティゴネ』の前日談として時系列的理解にも有益。オイディプスを演じた今井朋彦の、きりっとりりしく、ときに絶妙に震わせての、自由自在の声の響かせ方を楽しむ。作中と今日の我々との運命観の違いについて興味深く考えたのと同時に、私の生涯ベスト10に入る『コペンハーゲン』(2007。作=マイケル・フレイン、演出=鵜山仁)も同じ新国立劇場小劇場で上演されていて、そのときもハイゼンベルク役の今井朋彦はある種の運命との格闘を見せていたのだった……と。

(11月9日13時の部、新国立劇場小劇場)
 作家林芙美子の評伝劇の10年ぶりの再演(作・井上ひさし、演出・栗山民也)。この10年の間に森本薫の『女の一生』、有吉佐和子の『ふるあめりかに袖はぬらさじ』といった舞台作品を経験してきた林芙美子役大竹しのぶの肉体が今発する戯曲の言葉を興味深く聞き。芙美子の母キク役の高田聖子はこのところ別役実の『カラカラ天気と五人の紳士』やクシシュトフ・キェシロフスキ監督の映画シリーズの舞台化である『デカローグ8「ある過去に関する物語」』といった作品での快進撃が続いているが、歌えて動けて喜劇的表現に秀でた人だけに、初参加のこまつ座でも大いに躍動。キク役としての居方も劇世界に対して投げかけるものが大きく、今後のこまつ座への参加も期待したい。

(11月7日13時の部、紀伊國屋サザンシアター)
 こんな雨でも試合やるんだ! とまずはびっくり。たくましさと頼もしさが増した鈴木彩艶がナイスセーブ。決めたのは小川航基なの? オウンゴールなの? と悩む先制点(結果的にはオウンゴール)。三苫薫→南野拓実のあざやかな連携プレーで胸を衝くような2点目! あと2点くらい取ってくれてもいいんだよ〜と思っていたら、後半、まずは守田英正が落ち着き払ったゴール、そして菅原由勢が……あの角度で入るんだ! なゴール。水もしたたるいい男たち、お疲れ様でした。
 掲載されています。とても真摯な方だな……と。

https://spice.eplus.jp/articles/333072