藤本真由
(舞台評論家・ふじもとまゆ)
1972年生まれ。
東京大学法学部卒業後、新潮社に入社。写真週刊誌「FOCUS」の記者として、主に演劇・芸能分野の取材に携わる。
2001年退社し、フリーに。演劇を中心に国内はもとより海外の公演もインタビュー・取材を手がける。
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ソポクレスのギリシャ悲劇『オイディプス王』『コロノスのオイディプス』『アンティゴネ』を再構築した三部仕立ての作品(構成・上演台本・演出=船岩祐太)。一つの作品を長期的に育てていく新国立劇場の「こつこつプロジェクト」から生まれた舞台で、じっくり時間をかけた物作りのよさを味わえる。モダンな衣装と舞台装置でのわかりやすい展開で、ギリシャ悲劇により親しむ上で意義深い作品。あまり上演される機会のない『コロノスのオイディプス』にあたる『U』がとりわけおもしろく、『オイディプス王』の後日談かつ『アンティゴネ』の前日談として時系列的理解にも有益。オイディプスを演じた今井朋彦の、きりっとりりしく、ときに絶妙に震わせての、自由自在の声の響かせ方を楽しむ。作中と今日の我々との運命観の違いについて興味深く考えたのと同時に、私の生涯ベスト10に入る『コペンハーゲン』(2007。作=マイケル・フレイン、演出=鵜山仁)も同じ新国立劇場小劇場で上演されていて、そのときもハイゼンベルク役の今井朋彦はある種の運命との格闘を見せていたのだった……と。
(11月9日13時の部、新国立劇場小劇場)
(11月9日13時の部、新国立劇場小劇場)
作家林芙美子の評伝劇の10年ぶりの再演(作・井上ひさし、演出・栗山民也)。この10年の間に森本薫の『女の一生』、有吉佐和子の『ふるあめりかに袖はぬらさじ』といった舞台作品を経験してきた林芙美子役大竹しのぶの肉体が今発する戯曲の言葉を興味深く聞き。芙美子の母キク役の高田聖子はこのところ別役実の『カラカラ天気と五人の紳士』やクシシュトフ・キェシロフスキ監督の映画シリーズの舞台化である『デカローグ8「ある過去に関する物語」』といった作品での快進撃が続いているが、歌えて動けて喜劇的表現に秀でた人だけに、初参加のこまつ座でも大いに躍動。キク役としての居方も劇世界に対して投げかけるものが大きく、今後のこまつ座への参加も期待したい。
(11月7日13時の部、紀伊國屋サザンシアター)
(11月7日13時の部、紀伊國屋サザンシアター)