絶望の向こうに聞こえる音楽〜宝塚星組「My dear New Orleans」その2[宝塚]
 「My dear New Orleans」の主人公ジョイは、「Music is my Life」のナンバーで、貧困の絶望の中でも常に心をなぐさめてくれた優しい音楽への想いを歌う。最終的には自ら、人々の心に音楽を響かせる人生を選ぶわけだが、そんなジョイの絶唱を聞いていて、数年前のある時期、自分が毎晩のように繰り返し聞いていたとある曲のことを思い出した――。
 日本でも絶大な人気を誇ったノルウェーの三人組バンド、a-haの「Stay on These Roads」。同名アルバムが出たのが1988年のことだから、初めて聞いたのはもう二十年以上も前! 少女老い易く学成り難しとはよく言ったものだが、どういうわけだか数年前のその時期、この曲を聞くことが何より私の心の慰めとなっていた。
 北欧の凍てついて澄み切った寒空を思わせる雄大なメロディラインにのって、「この道を進み続ければ、いつかきっと会える」と繰り返されるこの曲を聞いて、その時期の私は、”my love”と呼びかけられるその出会いの相手は、自分自身であるとしか考えられなかった。未知なる自分、自分がこの道を進み続ければ、いつか出会えるのかもしれない自分。その道でまったく別の誰かにめぐり会えるのかもしれないという可能性は、一切頭をよぎることはなかった。とにもかくにも一人、ひたすら歩み続ければ、今とは違う自分に出会えることもあるのかもしれない、そう思って日々を生きていたのである。
 自分は孤独だ、一人ぼっちでさみしい…と思っているうちは、人はまだまだ孤独ではない。あまりにその状態に慣れてしまって、それが当たり前のことになっていて、自分が孤独であるなんて思いすらしなくて、その状態から抜け出してからようやく、「そんなに追いつめられてたんだ…」と気づいて恐ろしくなる、それが、本当の意味での孤独なのである。
 不思議なものである。今の私に、「Stay on These Roads」はかつて聞こえたようには響かない。むしろ、予見された出会いを祝福する、晴れやかな、幸せな歌に聞こえる。人間一人一人に定められた道があって、その道中で、それぞれの道が交差したり、重なり合ったり、合流したりして生きていくものだということを、その後の数年で知ったからかもしれない。

 本当の意味での孤独を人に気づかせるのは無論、愛でしかない。孤独という暗闇からすっぽり包み込んでくれる、あたたかな愛の光。
 ただ、真の意味での孤独を知り得たことを、自分自身は決してマイナスであるとは思っていない。むしろそれは、表現者を志す者にはとりわけ欠くべからざるもの、出発点なのだろうと思う。だから、また今度、あの孤独の状態に戻るようなことがあったとしても、大丈夫! …とは言い切れず、愛の手を離せず固執してしまうのは、「そんなに追いつめられてたんだ…」と気づいた瞬間の恐ろしさがどこか忘れられない弱さが、まだまだ自分に残っているからかもしれないけれども。