宝塚雪組公演「オネーギン」に檄!!![宝塚]
 嗚呼、またもや本日、感動の舞台を観た喜びを消費活動によって表現してしまったあひるです。それくらい、このところ、すばらしい公演が続いています。17日にさみしくも終わってしまった宝塚花組公演、新国立劇場オペラ「アラベッラ」、宝塚雪組東京特別公演「オネーギン」、そして今夜、東京オペラシティコンサートホールで聴いてきたばかりの「ラファウ・ブレハッチ ピアノ・リサイタル」……。17日には「アラベッラ」二回目に行ってきたのですが、リヒャルト・シュトラウスの魂をあまりにも激しく受け止めすぎて、感受性の安全弁がぱっかーんと開きっぱなしになってしまって、最後なんかもう、自動泣き人形のように自分ではどうすることもできないくらいただただ涙が流れっぱなしになって、家に帰ってそのままその場に倒れて寝込みました……。ラファウ・ブレハッチについてもまた詳しく書きますが、ショパン生誕2010年をあざやかに彩るオール・ショパン・プログラム。まだ25歳と若いのに、しっかり自分の人生を生きて、それをしっかりショパンの音楽に乗せて表現できる真の芸術家だった! 「一歩一歩を確かに重ねて行って、いつの日かショパンと同じ美の天空の果てまで、僕も昇りつめる!」と空高く翔るアンコールの「英雄ボロネーズ」の神々しくも輝かしいこと! 同じプログラムが聴ける23日の横浜みなとみらいホールでの公演、真剣にお勧めいたします。それにしても。連日連夜激しく心を動かすと、それは疲れる……。あ、花組の続編も忘れてはおりませぬ〜。あひる、もうヘロヘロ……。はは。
 さて、東京公演も残すところあと二日となってしまった「オネーギン」ですが、宝塚の文芸路線の豊かな薫りをたたえた佳作。組名からの連想も多分にあるのかもしれないけれども、雪組とロシア物作品は非常に相性がよいイメージ。硬質で端正な個性とロシアの凍てつく冬景色とが結びつきやすいのかなとも思ったりするのですが、今回の主演を務める轟悠も雪組出身、しかもニヒルでダンディな主人公とくれば似合いのキャラクター。実際、今の段階でも、東京公演が先行とは思えないほど、舞台全体の仕上がりも良し。……なのですが、あひるはここで敢えて言いたい。
 轟悠も雪組一同も、まだまだ行ける!
 「オネーギン」といえば、あひるはチャイコフスキーのオペラが大好き。特に、自分の世界に引きこもりがちなタチヤーナは大いに共感を寄せてしまうヒロイン。オネーギンに想いを吐露するタチヤーナの「手紙」のアリアを聴くといつも、心を思いきって文章にした後の自分をついつい重ねてしまって、その後オネーギンに拒絶されるとき、タチヤーナと一緒になってガーン……とめちゃめちゃ落ち込みがち。
 その一方で、タチヤーナや親友のレンスキーあたりと比べて、オネーギンという虚無に取りつかれた主人公は、表現の難しい静の役どころ。歌う歌手によっては、「……この人、何も考えてないだけなんじゃ……」と思ってしまったりすることもある、かなり受身一辺倒のキャラクターではあります。今回の舞台は、オペラ版に比べ、オネーギンが能動に描かれていて、とある行動を決断するラストが見どころとはなっているのだけれども、今年舞台生活25周年を迎えた轟悠としては、これまで培ってきた人生経験と男役芸とを、静の魅力の中に、なにげない立ち姿や背中で雄弁に表現する好機。何しろ、周りの雪組生にとっては、轟悠は入団したときから憧れとしてきたであろう先輩スター。あひるも、子供のころから憧れてきた演劇人に、大人になって取材等でお会いできたときの晴れがましくも誇らしい気持ちを覚えているからよくわかるのだけれども、そんな憧れの存在と同じ舞台に立って演技の上で対等にやりあえるとなれば、みんなうれしくてうれしくて、若さのエネルギーと心のパワー全開で轟に向かってくるのは当たり前といえば当たり前。そうやって向かってこられて、ついついパワーで返したくなる気持ちも本当によくわかるのだけれども、オネーギンは、感じやすくて頭が切れすぎるがために、社会に絶望してしまって、心がほとんど死んでしまったところを、周囲の人々の熱い思いや情熱、真摯な愛にふれて、最終的に能動の決断を下す、非常に難しい役どころ。革命派の将校たちにどんなに熱く激しく向かってこられても、耐えて耐えて耐えて、想いをためてためてためて、最後で吐き出す役柄とでもいうか。あひるは行ったことはないけれども、轟悠の故郷の人吉はきっと、いいところなんだろうな……等々、想念のヴィジョンはあれこれ感じるのに、少しでもよけいな力が入った瞬間、せっかくのヴィジョンは一瞬にして霧散してしまう。力むと「黎明の風」の白州次郎がちらついてしまうし、やりすぎては「キーン」の二の舞の恐れあり。リラックスして、心をやわらかく解き放って、こめるべきはただただ想いのみ! あひるは16日の11時公演と19日の14時公演を観たのだけれども、16日の第一幕はいまだかつて経験したことのない轟悠の姿に茫然とし、19日は第二幕、タチヤーナに想いを打ち明けようとするあたりからラストにかけてがとりわけよかった。……ということは、16日の第一幕の感じと、19日の第二幕の感じで続けていけば、いまだかつてない新しい“轟悠”が完成するはず! 一度創り上げたものを壊すのは確かに恐ろしい。けれども、その創造と破壊のメタモルフォーゼを繰り返し続けた者だけが、真に一流の表現者たりうる……とは、蜷川幸雄演出作で変容を遂げる役者たちの姿にあひるが教えられた真理。あひるは最近、2014年の創立百周年に向け、宝塚歌劇が今、真の舞台芸術創造集団たらんと、日々刻々と凄まじいスピードで進化しているのを感じずにはいられないのだけれども、その上でも今回、轟悠が新たな男役像を打ち出せるか否かは、後に続く者たちにとって大きなキーとなってくるはず。25年間のうちに培ってきた芸と人間性、そして観客を信じて、心を自由に解き放っていけば、若さのパワー恐れるに足らず。もちろん、周りも、新しく誕生するであろう“轟悠”をさらに大きなものとするためにも、パワー全開でぶつかって行くべし。大丈夫! まだまだ行ける! あひるももう一回行きます。皆様もくれぐれも新しい“轟悠”誕生の瞬間をお見逃しなきよう〜。