天真爛漫! の“心のキャラ”発表〜花組公演「Le Paradis!!」その1[宝塚]
 もうすぐ千秋楽という今になって、完璧”Le Paradis!!”なスプリングコートを見つけてしまったあひる。前立てにギャザーフリルがあしらわれていて、スタンドカラーにもフリルがついていて、黒にローズピンクの裏地、もしくは色違いが、ローズピンクに黒の裏地。黒の裾からちらっとローズピンクが見えるのも素敵なんだけど、マニッシュな人の方がかっこよく着こなせそうだから、やっぱりローズピンクかなあ…。
 …と、とかくお買い物心を刺激しがちな藤井大介作品にあって、異色の存在感を放っているあの人が今回の“心のキャラ”。もしかすると見事予想的中の方も多いのでは? そう、真飛聖演じる大スター、ムッシュ・サクレの追っかけ隊の一人、男役・天真みちる怪演! のおばさ…いえ、マダム。全身パープルで決めた強烈ないでたちも一度目に焼きついたら離れない彼女は、とんでもない押しの強さを発揮し、他の追っかけ隊を「ごめんあさあせ」と蹴散らし突き飛ばし、ムッシュ・サクレにとってほとんどありがた迷惑とも思える愛をぶつけに今日も劇場へと向かう。足取り軽く、恋心高まるあまりの投げキスをぶっちゅーと振りまきながら。
 しかし、彼女のムッシュ・サクレへの愛は意外にも純粋なものに思われる。きらきら光る瞳と、いかにもおばさんらしい振る舞いの合間にときおり見せるとびっきりの笑顔でわかる。そして彼女は、大スターの愛が自分にもっとも深く注がれていることをなぜか確信してやまない。銀橋に立ち、彼女は演歌歌手よろしくこぶしを回し、ドスの効いた声でシャウトする。
「♪幸せなのおお〜。きゃあ〜」(“おお〜”と“あ〜”に濁点振ってお読みください)
 熱狂とは恐ろしいものである。好きな人、好きなものに耽溺するあまり、人はときに、他者の目を忘れ、自分の世界に入り込む。天真の怪演は、行き過ぎた“偏愛”のカリカチュアに他ならない…!
 …と、そこまではまあ書き過ぎとして。いや、書き始めたら楽しくなってきて、天真よろしく思いっきり突っ走ってみた次第。どちらかというと彼女は、舞台人としての野性的、動物的勘を発揮して、この強烈な役どころを造形したという方が近いような…。名は体を表す。天真みちるの武器は天真爛漫さである。
 天真は中詰の銀橋でも活躍を見せる。蘭乃はな扮するレビューの華を追いかけてくる男役陣ではトリを務めているが、ようはオチ要員、星組「ア ビヤント」“心の名場面”のMVP、美城れんを思い出させる。そして、何しろ追いかける男役陣が多いため、トリまで来ると、先頭はもはや見えず、何だか楽しそうな行列があったからその後ろからついてきてはしゃいでいるだけのような…。そして最後には「さ、行こう!」的なジャンプを決めて去ってゆくのだが、このジャンプが何だかとってもアニメの実写版風。この“アニメ的”こそ、天真の動きにおいて特筆すべき要素である。思えば、「麗しのサブリナ」の使用人チームでも、一人くるくる回転していて、何ともアニメ的な動きに目を奪われずにはいられなかった。そのいささかくどい動きがゆえに、そして、心から楽しそうに舞台に立っている風情ゆえに、一度この人を視界に入れてしまうと目線を外しがたいものがある。見ていて何だかおかしみを誘われ、つい吹き出してしまう。退団公演の別れのさみしさに押し流されそうになったときに特にお勧め。
 「愛のプレリュード」でのメインの役どころはパン屋の店主。パンを盗んだ少年を追いかけて孤児院までやってきて、警察に突き出してやるといきまくが、真飛扮する主人公に出されたお札に目の色変えて飛び付く。アンパンマンとジャムおじさんが合体したような、一見善良そうなパン屋のおじさんでさえ、サンタモニカを襲う不況の風に何とも心すさませているものだ…と思わずにはいられない。ただ、演技的にはまだまだ全然行けると思う。「君は面白ジェンヌを目指すのか、それとも、男役道にも邁進する所存なのか、どっち?」と聞いてみたくなるときもある。役者としてのタイプは全然違うけれども、例えば、星組の美稀千種のように、黒燕尾服を着たらきりり、熱いパッションをはじけさせる一方で、笑いもきっちり取り、笑いの要素以外でも舞台を締める演技ができるようになるといいと思うのだけれど。今回の“心のキャラ”受賞も、追っかけ隊の娘役陣が絶妙にパスを回しての好アシストがあったればこそ。視野を広げ、舞台全体、作品全体における自分の立ち位置を的確に認識した上で芝居心を発揮できるようになれば、舞台に立つことをこよなく楽しむ気持ちがより大勢の観客を巻き込んでいくことになるように思う。