改めて、覚醒について〜宝塚・晴華みどりと退団者を送る[宝塚]
 「仮面の男」で、舞台上空から吊られ、自らスカート部分のミラーボールを回して歌う晴華みどりの、ある種神々しい姿を観ていて、思った。タカラジェンヌとして覚醒した彼女だからこそ、ミラーボールにも負けない輝きを放つことができるのだと。“ミラーボールに人間が乗ってます”状態ではなくて、“人間ミラーボール”として一体となった輝きを放つことができるのだと。
 全国ツアー「黒い瞳」エカテリーナ役での覚醒から約半年、彼女は発光するかの如く舞台上に在った。「ハウ・トゥー・サクシード」のヘディ・ラルーもセクシーさに光り輝いていた。マリリン・モンローよろしく、お尻ふりふり道行く男性陣の眼を釘付けにするお色気秘書も、彼女にかかれば、「人生に一度くらい、こうやって悩殺することができたら楽しいかも!」という”dreams come true”の役どころとなるのだった。
 退団公演ともなれば、晴華の歌にはますます慈愛が増していた。宝塚歌劇を愛し、劇場空間に集ったすべての人々への愛が。そんな彼女が、上空で、二階席の観客をもゆっくりと見渡しながら歌う様を観ていて、そして、「ROYAL STRAIGHT FLUSH!!」ではエトワールとして、パレードの大階段を最初に降りてきて歌い上げる様を観ていて、思った。
 晴華みどりは一人、舞台センターに在って光り輝く娘役なのだ――。
 一度も取材することは叶わなかったけれども、この半年間、何だか、戦友として一緒に駆け抜けてきたような気分である。彼女の舞台を観ていて、宝塚を愛してきてよかった――と思う瞬間に何度も恵まれた。それだけ、彼女の宝塚を愛する心が、ピュアに、ストレートに、客席へと伝わってきていたからだと思う。

 晴華みどり、舞咲りん、沙央くらま、愛加あゆ、舞羽美海、いま現在の雪組の覚醒戦隊が娘役多めの黒一点状態であるのは、覚醒第一号者が娘役の晴華であったことも大きいのだろうと思う。
 人それぞれが唯一無二の存在であって、それぞれの生に与えられた使命が唯一無二であるが故に、覚醒、己のその使命に気づくこともまた、それぞれに唯一無二の状態である。二つとして同じ覚醒はあり得ない。そして、使命に気づくことができれば、己の人生の時間と力のすべてをその目的に向かって燃焼させることができる。生体エネルギーを正しいベクトルでフルに燃焼させているからこそ、覚醒した者はあんなにも光り輝くのである。
 そんな覚醒者同士の関係もまた、唯一無二の関係、友情であるはずである。誰かが誰かの代わりになることはあり得ない。例えば、晴華が「ハウ・トゥー・サクシード」で、同じく覚醒者である専科の汝鳥伶と、また、覚醒にきわめて近い(あるいは、もしかしたら一応一度はしたのだけれどもまだまださらなる覚醒の余地が残されているから何とも判定しづらいのかもしれない)緒月遠麻と繰り広げる場面は、お互いに、ああもできる、こうもできるという芸の上での探り合いが見応えたっぷりで、しかも、その二人でしか成立させられないという稀少性があったのである。
 「覚醒したかな、してるのかな」と思っているうちはまだまだである。本人にとってはきわめて自然に訪れて、「あ、あれが覚醒の瞬間だったんだ…」と、後から気づくようなものではないかと思う。そして、ポジションや本人の心理状態の変化によって、覚醒は無限に繰り返され得るものである。宝塚でいえば、トップと二番手では覚醒は自ずと異なってくるのだと思う。例えば、舞羽美海の覚醒は、“娘役トップお披露目作での”のカッコ書きが必要で、またすぐにでも次の段階が来そうな気もする。何と言っても、雪組の最終兵器、舞咲りんを向こうに回してコメディ・シーンを張れる(”ALICE IN WONDERLAND”)、そして、その舞咲をキューティー路線に回してコメディ・シーンを張れる(”There is no Victor”)娘役トップの誕生は、頼もしい限りではないか。
 晴華みどりの退団後の覚醒戦隊の隊長は、舞咲りんがきっちり引き継ぐはずである。今後、リーチ状態の男役四人が加わって、“フルハウス”以上成るか。否、組長の飛鳥裕と副組長の麻樹ゆめみあたりが先だろうか。

 退団公演で、日本物作品でもないのに、水戸黄門役! 大凪真生の足長スラリのご隠居様ぶりを、忘れない。「ROYAL STRAIGHT FLUSH!!」では、パーッと駆け出してきて、思いの丈を長身からぶちまけるように踊るGI役が印象に残る。
 改訂後、「仮面の男」の一番の悪役を務めることとなった彩那音は、フランス国民の王に対する陰口を逐一王に報告する役どころだが、男と女の声色をそれぞれ使い分ける多芸ぶり。こんな芸達者な人をモリエールが一座にスカウトしない手はないんじゃないの! と思ってしまった。「ロジェ」のヤコブ、「黒い瞳」のベロドローボフと、甘いマスクながら、リアリティのある、地に足のついた人物像を造形することに長けていた人だったなと思う。「ロミオとジュリエット」での、はじけた頭の婚約者パリスもキュートだった。
 「ROYAL STRAIGHT FLUSH!!」の終盤、彩那、晴華、大凪が、大階段に三人並んで歌い継ぐくだりは、作者・齋藤吉正の愛にあふれた餞の場面である。