心のままに〜宝塚雪組公演「ドン・カルロス」『心から心へ』に寄せて[宝塚]
 人はよく、「こんなことになってしまって、あの人に嫌われないだろうか…」などと思い悩んだりするけれども、嫌われないだろうかと悩む相手に他ならぬ自分自身を含めることを案外忘れてしまっていたりするものである。しかしながら、人は何より自分自身を尊重して生きるべきなのではないかと私は思う。そう生きる上でもっとも大切なことは、自分の心のままに生きるということである。
 私は何もわがまま放題好き勝手に生きて周りの人間に迷惑をかけることを勧めているのではない。自分がどう生きてきて、何をもっとも重要と考えるに至ったか、そして、これから生きていく上で何を実現したいのか、つまるところ、この世に生まれてきた自分の使命をどうとらえているのか、その答えに照らし合わせたところの“心のままに”生きるべきなのではないかと思うものなのである。
 無論、そう生きる上では責任が要る。ときに我慢も大いに必要だろう。自分の心を殺す我慢ではない。自分の使命を何としてでも達成する上での避けられぬ我慢である。それはときに苦痛をもたらすものであるかもしれない。だが、自分の心のままに生きる喜びは、他の何にも代えがたいものである。
 そして、あなたを、他の人間と取り替えのきく部品か何かのように考えている心ない人間ならいざ知らず、あなたをその心ごと、心のままに愛している人間ならば、あなたが心のままにどんな選択を下したとしても、決して嫌ったりなどしないものである。
 もしかしたら、あるとき下した決断が、今となっては自分の心に染まないものだった…と後悔しているのかもしれない。けれども、そのときはそのときでそう思ったのだから、それでいいではないか。人間には、たとえ不本意ながら下した決断であっても、結局はそれでよかったのだ…ととらえ、その方向で最大限の幸せを実現する機会もまた、与えられているものなのだから。
 あなたが今いる場所で過ごすその最後の瞬間まで、どうか幸せでありますように。

 雪組公演「ドン・カルロス」の劇中、本舞台と銀橋に分かれての難しいアカペラで歌い始められる美しい「心から心へ」のナンバーを聴いて、思ったこと。