恋する乳母〜宝塚星組「ロミオとジュリエット」の美城れん[宝塚]
 4月に観た星組「南太平洋」の“心の名場面”は、二幕冒頭、美城れん扮するルーサー・ビリス二等兵が“女装”して余興に興じるシーンである。男の色気あふれるヒゲ面のまま、“女装”。その姿で見せる楽しくも面妖な踊りに、何かの発作を起こしたように笑い続けながら、自分でも非常に不思議だった。女性が男役としてひげをつけ、その上で“女装”している姿を見ることが、どうしてそんなにもおかしいのだろうと。そこに確かな芸があるからこそ、“女装”をしても決して女に戻るわけではない。性の軛を逃れた、あまりに自由な存在となり得ていることに痛快ささえ感じて、心の底からおかしくなって、笑ってしまうのである。
 南太平洋に駐屯中の軍の面々が興じるこの宴会シーンは、南国の植物の葉を背負い羽根に見立て、宝塚の南国レビュー風に見せた原田諒の演出も冴えるところ。そして、美城の演技には、内輪で楽しみに興じているという趣向のこの場面での芸を、決して内輪受けのそれにはしない品のよさがあった。「こういうことをすると客席の宝塚ファンには受けるよなあ」という媚びからではなく、あくまで役者としてルーサー・ビリスという人間をしっかり構築しているから、彼が“女装”して仲間と共に楽しげに余興に興じる様も、いたずらに受けや笑いに走ることなく、きちんと演じられるのである。ヒロインに心を寄せ、一貫して彼女の味方であり続ける男の香気も光り、“心のキャラ”を越えて助演男優賞ものの舞台だった。
 その美城は、「ロミオとジュリエット」で乳母の大役に挑んだ。客席降りもある「綺麗は汚い」のナンバーでは芯を務め、我が子のように育てたジュリエットへの思いを歌い上げる「あの子はあなたを愛している」のソロがある役どころである。少々渡辺えり似のルックスもかわいらしさに花を添え、ロミオのことはもうあきらめてパリスと結婚するよう諭すシーンも、ジュリエットの幸せを心から願う愛に深く、決して現金に心変わりしたのではないと納得できるものがあった。「あの子はあなたを愛している」のソロではもう、ジュリエットがロミオに恋するように、美城の乳母も恋している。――舞台に。観客の前に立ち、こつこつと磨き上げてきた芸を披露する、その営為に。正塚晴彦のように、ロミオとジュリエットの恋を、舞台と客席との間に成立する“恋”と解釈するとすれば、恋する美城の乳母は、両者を取り持つ役回りである。その芸によって。
 決して自分の芸をひけらかすタイプではない。だから、その存在はなかなか広く知られずに来た。そして、昨年の「ジャン・ルイ・ファージョン」で演じたバレル役で、革命政府の方針に従い、主人公を形ばかり弁護してきたものの、主人公の信念にふれ、「異議あり!」と敢然と申し立てた瞬間、心が震えた。それは一つの宣言だった。己の使命に目覚める人間を演じて、美城は、宝塚歌劇の舞台に生きる己の使命に目覚めたのである。
 ずっと宝塚でその舞台を観たい――と願うことは、観客の我がままではある。なぜならそれは、タカラジェンヌに対し、結婚も含めた多様な生き方を否定することに他ならないからである。けれども、もし、彼女自身がそう望むなら、専科も視野に入れた上で、男役、女役問わず芸を磨き続け、宝塚の舞台で輝き続けていってほしい、そう願うものである。