心の乾杯〜宝塚・悠未ひろを送る[宝塚]
 往年の名画の舞台化「カサブランカ」で、悠未ひろは敵方のシュトラッサー少佐を演じていた。ドイツ帝国に固い忠誠を誓う歌の迫力の凄まじさ。その一方で、少佐には少々おちゃめな部分もあった。「少佐、乾杯してください!」と乞われ、少佐は諾とも否とも言わぬまま、片手を勇ましく腰に当て、いきなりジョッキを「プロースト!」と突き出すのである。これが大いに気に入ったあひる夫婦は、以来、食事に行って飲み物が出てくると必ず、「少佐、乾杯してください!」「プロースト!」と、ひそかに少佐の真似をしていたりする。
 キザらなくてはいられない性分で、スーツに眼鏡という姿で踊り狂う「銀ちゃんの恋」の専務。軍服姿もりりしいのに、どこかボケ風味が漂う「銀河英雄伝説@TAKARAZUKA」のパウル・フォン・オーベルシュタイン。過去に迷い込んでの違和感を、華麗ないでたちに真面目な顔でとぼけるたたずまいに感じさせた「逆転裁判3 検事マイルズ・エッジワース」の主人公マイルズ・エッジワース。宝塚歌劇史上最長身ともいわれる体躯で醸し出すそこはかとないおかしみが、彼女の男役芸に絶妙なアクセントを与えていたように思う。今年夏の全国ツアー公演「うたかたの恋」で、純白のラストシーン、宝塚の名曲の一つに数えられる同名曲を歌い上げた影ソロも非常に印象深い。
 「ファンキー・サンシャイン」は“太陽”をテーマにした楽しいショーだったが、中詰、ラフなスタイルで踊る悠未の姿に、太陽のもとに干され、ふかふかになった超特大の布団にぬくぬくとくるまれているような心地よさを感じたものだった。そんな、ほっこり温かな彼女の持ち味が、大好きだった。本日12月23日は、彼女にとって宝塚生活最後の日。どうか、その温かな心のまま、これからの人生、出会う人々をくるんでいってほしいなと思う。