宝塚月組公演「1789」退団者たち[宝塚]
 帝国劇場公演「エリザベート」と共に、潤色・演出の小池修一郎復活を印象付けた宝塚月組公演「1789」だった。もともとはフレンチ・ミュージカル、フランス革命を民衆の側から描く群像劇を巧みに交通整理し、フランス革命を主に貴族の側から描く「ベルサイユのばら」という大ヒット作をもつ宝塚歌劇に適合させた。圧巻だったのは、「ベルサイユのばら」でもメインの登場人物であるフランス王妃マリー・アントワネットを演じた愛希れいかである。トップ娘役ながらトップスターと組まないというイレギュラーな配役だったが、スウェーデン将校ハンス・アクセル・フォン・フェルゼンへの恋、その喜びに生きる一人の女性としての姿から、王妃として生きる覚悟に至るまでを、「ベルサイユのばら」に描かれているのとはまた異なるアプローチで描き出した。ときどき、はっとするほど大人の女性としての色気をただよわせる。デュエット・ダンスでの身のこなしもますます冴えわたり、舞台人としてのさらなる進化を見せた。愛希アントワネットに対してフランス国王ルイ16世を演じた専科の美城れんも、最後の最後で民衆を理解しない君主の哀しさを感じさせる。ラストの“人権宣言”の場面では、ルイ16世も含め、全員が一人の人間となって踊る。実際の生涯では恐らくあんなにも激しく踊ることはなかったであろうルイ16世の姿に、彼もまた一人の人間であったことが、美城の肉体を通して示されているように思えた。その場面及び民衆蜂起の場面の迫力あるボディ・パーカッション等を担当したKAORIaliveの振付が効いている。革命で倒される国王側がくっきりと描き出されることで、彼らに対して立ち上がる民衆の闘いもまたあざやかなものとなり、月組生による総力戦が光った。
 この公演で惜しくも退団する琴音和葉は、実在の革命派ジャーナリスト、カミーユ・デムーラン(凪七瑠海)の妻リュシル役を演じた。彼女が舞台に登場すると、まるで鈴の音が鳴るようなその声でわかる。実在のリュシルも夫をよく支え、最後は決然と断頭台に上がった女性だったそうだが、琴音リュシルも凪七デムーランに、楚々と、それでいて確かな意志をもって寄り添う様が印象的。ヴァランシエンヌ役を好演した「THE MERRY WIDOW」でも、琴音の静かながらもどこか決意を秘めた横顔が心に忘れがたい。琴音と同じく90周年の記念の年に初舞台を踏んだ瑞羽奏都もこのたび卒業である。西洋人のように彫りの深い顔立ちをもつ男役ながら、全国ツアー公演「愛するには短すぎる」では大真面目な顔でいきなり前転、虚を突き笑いをかっさらった。これぞ“心のキャラ”である。「1789」でもその長身から繰り出す踊りがダンス・シーンで際立っていた。