宝塚花組「新源氏物語」「Melodia」退団者[宝塚]
 「新源氏物語」で一つ残念だったのは…。「源氏物語」といえばのかの有名な“雨夜の品定め”の場面において、女性が男性を演じる宝塚歌劇ならではの批判精神が発揮され得る格好の箇所なのに、そうはならなかったことである。彩の国シェイクスピア・シリーズ「シンベリン」(2012)のイタリア男たちによる女性品評会のシーン、演出の蜷川幸雄はバックに「源氏物語絵巻」のこの場面を用い、二つの物語の共通点を引き出してみせた。その演出からは、「まったくどこの国の男たちも、なあ」という盛大なツッコミが聞こえてくるようで、実に鮮やかだったのである。あのとき、蜷川幸雄の「源氏物語」論をも垣間見ることができていたのだなと、振り返って思うけれども。だいたいが、女性が女性の理想の男性を演じる宝塚歌劇自体、逆“雨夜の品定め”三次元版のようなものであるからして。
 右大臣役の天真みちるが怪演。終始目が開いているのかいないのかわからないようなおとぼけ演技で、左右にふらふら歩いているだけで笑いを誘う。前回二本立て公演でもダブルで“心のキャラ”をかっさらい、歌舞伎を観てもバレエを観ても、「あ、この人、宝塚で言うと天真みちる的な…」と、絶えずその影? を追い求めるようになっている己が怖い。雪組の久城あすと共に、将来の専科入りを望んでやまない。
 レビュー「Melodia」の作・演出は中村一徳。作者の色は感じさせつつも、異なる組、異なるスターによってカラーを変えてくるあたり、作者の安定した力量で楽しませる。ギンギンの音楽に乗ってガンガン大勢口を踊らせてもあくまで品がいいのが素晴らしいところ。スプリットを交えたラインダンスも迫力あり。ケガで長らく休演した花野じゅりあが完全復活を印象付ける大活躍。女海賊に扮して男役を引き連れ踊るシーンは非常に見応えがあった。ふくふくとした笑顔でそれは幸せそうに踊っている姿を観ていると、こちらまでにこにこ幸せになってくる。そして、次の公演から副組長に就任する彼女のもと、花組娘役陣がパワーアップ。桜一花、初姫さあや、華耀きらりと退団してさみしいものがあったが、菜那くらら、華雅りりか、朝月希和、春妃うららあたりが大いにアピール力をつけ、華を競う。トップ娘役花乃まりあの頑張りも、芝居レビューとも好印象。芝居仕立てのデュエット・ダンスにもコケティッシュな魅力がある。花組娘役陣、依然鉄壁布陣である。男役では鳳月杏の奮闘が心に残る。レビューで女装してのダンス・シーンは、大空祐飛の男役時代の女装を思わせるなまめかしさがあった。

 2015年の東京宝塚劇場をしめくくるこの公演で、副組長・紫峰七海が退団する。重厚感のある男役で、悪役をよく任されていた印象がある。それでも、ほっこりとした笑みを浮かべた青年像が強く記憶に残っているのは、「サン=テグジュペリ」の名シーン、「ミ・アミーゴ」があるからだろうと思う。主人公(蘭寿とむ)一人を本舞台に残して、空の彼方に消えていった五人の飛行士仲間たちが銀橋を渡り、友情を歌う。悠真倫、蘭寿とむ、壮一帆、愛音羽麗、華形ひかる、みんな花組を去っていった。そして最後の一人、紫峰も、今。「Melodia」の退団者への餞のシーン、銀橋を渡るくだりで、「ミ・アミーゴ」の銀橋が深い感慨をもって思い出されたのは、あのときと同じほっこりとした笑顔を観ることができたからなのだろうと思う。