「サロメ」初日[オペラ]
 初日観劇(3月6日14時の部、新国立劇場オペラハウス)。
 リヒャルト・シュトラウス先生とデート?の気分でわくわく出かけるあひる。先生の音楽の中には、これぞシュトラウス節〜と思えるフレーズがあって、それを聴くと胸がきゅうんとしめつけられるようにときめき。この日もまた。サロメは、…この男の生首でもいいから欲しい! とまで思いつめるわけで、預言者ヨカナーンから一瞬たりとも目を離さないとか、全体的に恋の狂気があってもいいんじゃないかな…と思ったけれども。ただ、前に、ベンジャミン・ブリテンのオペラ「ピーター・グライムス」を聴いていて、…社会から孤立し追いつめられていく人間の狂気がもっとあってもいいんじゃないかな…と思っていたら、その後、違う演奏会で、まさに狂気そのものとしかいえない音を聴いたことがあり。そう演奏している人がいる以上、その人はそういう狂気を自分の内に聴いているんだな…と、せめてもの思いで一緒に耐えたけれども、聴くだにもうその場で吐いてしまうんじゃないかというくらい気持ちが悪くなって、劇場に行くのがちょっとこわくなってしまうほどの思いをしたことがあって…。難しいところではある。それから、ヨカナーンはサロメを拒絶するばかりでなく、神を求めてその赦しを乞えとちゃんと伝えているんだな…と改めて気づいた次第。
 サロメに叶わぬ想いを寄せるも報われず自死を選ぶナラボート役は望月哲也。昨年3月の「河原忠之 リサイタルシリーズ2015 “歌霊” 第7回〜リヒャルト・シュトラウス vol.II〜」での歌唱も心に残っている。シュトラウス先生は根は非常に明るい人なんだろうな…と、曲を聴いていて思うのである。だからこそ、曲に励まされる。そのあたり、望月の歌声は非常に合っているように思う。

 去年11月、シルク・ドゥ・ソレイユ「トーテム」の取材でシンガポールに出張した際、マリーナ・ベイ・サンズのカジノ棟の前で一人、「ワンダー・フル」を観ていた。美しい夜景をバックに繰り広げられる、光と音のショー。当然、出演者はなしである。
「…うわあん、“美しいね”って誰かと分かち合える方がいいよう〜」
 思いっきりセンチメンタルになって、何故か東京より遠く思える三日月を見上げて泣いてしまったあひる。夜の闇に泣き顔を隠し、そこから歩いて15分くらいのガーデンズ・バイ・ザ・ベイに移動、やはり光と音のショー「OCBCガーデン・ラプソディ」のためにスタンバイ。巨大人工ツリーを見上げる絶好の場所に陣取っていると、そのカラフルな点滅が始まると同時に聴こえてきたのは…。
「チャーン、チャーン、チャーン、チャチャーン!」
 シュトラウス先生の「ツァラトゥストラはかく語りき」!!!
 大爆笑。さっき泣いたあひるがもう笑った。だって、まさかこんなトロピカルな夜空の下でシュトラウス先生を聴くとは夢にも思わず。ちなみに、クラシックは他にはサン=サーンスの「瀕死の白鳥」くらいで、あとはディズニー・メロディ満載。先生が、「仲間はいるぞ〜」とド派手に励ましてくれた感じ。思えば、この人が親友になれる人だよと教えてくれたのも先生だったし。「ツァラトゥストラはかく語りき」の冒頭のこの上昇する三音をひっくり返せば、「アラベッラ」第三幕でヒロインが恋人のもとへと階段を降りてくる下降の三音…。すっかり気を取り直し、ホーカーに寄ってシンガポール・チキンライスを食べて帰りました。ちなみに、この出来事で生成した“かたまり”は「トーテム」公演プログラムに掲載されています。それにしてもシュトラウス先生の音楽は後世の美に本当に貢献しているなあと改めて感じ入った出来事。