新種の包容力、発見〜FREE TIME, SHOW TIME『君の輝く夜に』の稲垣吾郎
 八月中旬、夫の実家に帰省がてら、約20年ぶりに京都劇場に赴き、『君の輝く夜に』を観劇〜(8月16日14時の部、京都劇場)。パルコ劇場で上演されていた『恋と音楽』シリーズの劇作家&演出家の鈴木聡とジャズピアニスト&作曲家の佐山雅弘、そして主演の稲垣吾郎、またまた集結である。出演は、稲垣の他は、安寿ミラ、北村岳子、中島亜梨沙の三人。ある約束のため、ダイナーにやって来た主人公と、そのダイナーにやはりやって来た女性陣とが、歌とダンスを交えて送る、おしゃれで小粋な音楽劇。
 稲垣吾郎の舞台を観るのは『恋と音楽FINAL〜時間劇場の奇跡〜』(2016)以来。歌声も力強く、セリフの発声においても、ソフトに包み込むように心地いいその声を、一段と巧く響かせられるようになっている。途中の楽しいショータイムで「アローン・アゲイン」(自殺の企てが扱われていて、明るい歌詞ではない)を日本語で歌う、そのとき、…ああ、この人は、こんなにも内省的な歌を実に淡々と歌って成立させられる人になったんだな…と、本当にしみじみとした――それは、昨年放映されたテレビドラマ『嘘の戦争』で、主演を務めた草g剛を観ていて、…ああ、この人は、こんなにさまざまな思いをないまぜにした表情を浮かべられる人になったんだな…と感じた、そのときの思いと似ていた。
 そして、稲垣吾郎の包容力たるや。私自身、初めて接するタイプの包容力。それは。「包容力を発揮していると相手に感じさせないように発揮する包容力」なのである。「むしろ相手の方に包容力を発揮してもらっていると感じさせるように発揮する包容力」とも言える。細やかというか、ややこしいというか。ものすごい心配りの人である。だから、客席にいて実に心地いい。稲垣吾郎ファンは幸せだ…と思った。私も、彼の存在を通じてSMAPを好きになったわけで、…お目が高い! と、かつての自分を何だかほめたい気分。
 そういう心配りの人だから、グループのときは、…みんなの中にいたら、この立ち位置で…と、自分のイメージについて演出し、演じるようなこともあったのかもしれない。一人で立っている彼は、自然体で、心解き放たれていた。そして、実にかっこよかった! 大人の男性の余裕がある。ガツガツしたところがない。これまでの人生で経験してきたあれこれがいい感じに詰まっている。この人と対話するとしたら、いろいろ奥深い言葉が返って来てとてもおもしろいだろうなとわくわくする、そんな感じ。ここへ来ての役者としての大活躍もうなずけるところ。
 そして、彼の隣に立つ安寿ミラはと言えば。「断崖絶壁で両手をはっしと広げて、迷える子羊たちがこれ以上海へと真っ逆さまに落ちて行かないよう、決死の覚悟で食い止めるような包容力」を感じさせるのだった。凄絶と言おうか。…その姿に、教えられた。宝塚の男役トップスターも、退団してから、いろいろな心境の変化をくぐり抜けていくことを。そうしていって、芸を磨いて…。そして今、安寿ミラが目の前にいる。かっこいい! 自分は絶対になれないタイプの、かっこいい女。
 鈴木聡の脚本も、音楽の入り方が絶妙になっていて、熟練の技を感じさせて。本当に楽しい音楽劇!

 作曲を担当した佐山雅弘氏は、11月半ばに永眠されたとのこと。合掌。
2018-12-28 21:52 この記事だけ表示