『いだてん』十二回目〜!!![ドラマ]
 とつけむにゃあ回だった。観終わって、涙顔でしばし放心状態。
 日本人として初めてオリンピックに参加した金栗四三は、日射病で倒れ、マラソンを完走できなかった。この史実をどう描くのか、非常に気になるところ、こう来たか! と…。
 四三(中村勘九郎)が走り出したあたりで、すでに胸が痛かった…。国とか責任とか、そんなもん背負わんでよか! と思って。――私は子供のころ、母親に円谷幸吉の話を聞かされて育った。あまりの期待の重圧に、「父上様、母上様、三日とろろ美味しうございました」で始まる遺書を残して、メキシコシティ五輪(1968)の前に自ら命を絶ったマラソン・ランナー。生まれる前の話だけれども、母親が繰り返し語った話があまりに心に深く刻まれていて――きっと彼女の心にも深く刻まれているのだろうと思う――、日本人とオリンピックを考えるとき、今でも真っ先に思うのが円谷幸吉のことなのである。だから、走り出した四三の姿に、円谷幸吉が重なって、胸が痛かった…。
 猛暑の中、走る四三――その道に、彼の心象風景、これまで彼が生きてきた道が重なっていく。彼は、ストックホルムを走りながら、熊本を、東京を走り、スウェーデンの人々に応援されながら、日本の家族や友達や仲間に応援されて走る。そこに、若き日の志ん生(森山未來)が、初高座を前に、車を引きながら東京を走って噺を稽古するシーンまで重なる。実にシュールな演出である。そして流れるはジャジーな音楽。――予定調和を越えている! と感じた。スポーツの報道を観ていても、…この先、こういう展開を求めているんだな…とその演出に感じることがあって、でも、人生には筋書きがないから、というか、天の筋書きはときに人の考える“物語”を軽々と超えていくから、想定していたのとちぐはぐの展開になって、…あ、今、困っているんだな…と思うときもあって。日射病で倒れて完走できなかったというのは、事前の想定を遥かに超えた展開である。そこに、「感動をありがとう」は、ない。
 朦朧と走る四三の前に、子供時代の“彼”(久野倫太郎)が現れる。――子供に演技をさせるのは難しいことだと思うから、申し訳ない話なのだけれども、私は、こまっしゃくれた子役芝居がものすごく苦手な人間である。その点、久野倫太郎は、実に自然な演技がいい。というか、彼から自然な表情を引き出している人々がすごい。子供時代の“彼”は、一度は四三を励まし導き、…そして、運命のあの岐路で、四三を間違った道へといざなう。人生の分岐点。あのとき、ああしていれば。こうしていれば。そんな人生の分岐点を一つも持たぬ人はいないだろう。金栗四三の場合、その分岐点による転回はあまりに大きく、あまりに残酷なものとなった。そんな人生の真実を描いて、美しい回だった…。
 次週のタイトルは『復活』。と聞いただけで、あの話とあの話にかけたダブルミーニングかな…と予想しているけれども。予想通りだったり、いい方に裏切られたり、人生と同じように、次週放映も楽しみにして。…せっかちなので、本心は待ちきれなくて、「早く次の日曜になれ!」と思っているのだけれども(笑)、ほころび始めた桜を眺めながら一週間を過ごします。
2019-03-24 23:59 この記事だけ表示