『いだてん』十六回目〜[ドラマ]
 皆様、十連休はいかがお過ごしですか。あひるは箱根で一泊してきました――昨夜は芦ノ湖畔よりお届けしておりました。昨日の夕方、箱根駅伝5区のコースをバスに揺られていたら、雨が途中から季節外れの雪に! ゴールデンウィーク初日にまさかの光景。そして本日、芦ノ湖畔から眺める富士山は雪化粧がひときわ美しく。帰りのバスの車窓から5区ゴール地点近くにある駅伝広場の「襷−TASUKI−」モニュメントを見て、帰京して『いだてん』を観たらば、金栗四三(中村勘九郎)が冒頭で富士山の美しさを愛でていて、偶然にびっくり。
 そして、今回から足袋職人の黒坂辛作役で三宅弘城登場〜。待ってました! ――三月中旬、あひるは、愛のレキシアター『ざ・びぎにんぐ・おぶ・らぶ』(原案・演出・上演台本=たいらのまさピコこと河原雅彦)を観て、思っていた。Only Love Hurts(面影ラッキーホール)の楽曲で構成された歌謡ファンク喜劇『いやおうなしに』(2015年、作=福原充則、演出=河原雅彦)なくして、『ざ・びぎにんぐ・おぶ・らぶ』は生まれ得なかっただろうなと。そして、思い出していた。『いやおうなしに』で三宅弘城が見せたダッチワイフの人形振り、すごかったな…と。そこへ、三宅弘城『いだてん』出演のニュース! 偶然にびっくり。その日から登場をずっと楽しみにしており。からっと明るくて、しみじみ人情深くて、いい! …いい役だな…としみじみ噛みしめて演じているのが伝わってきて、足袋職人の曾孫として、しみじみ。
 新婚早々妻スヤ(綾瀬はるか)と別居し、ベルリン・オリンピックへ向けてトレーニングの日々の四三。マラソンに賭けるあまり、上京してきたスヤに帰ってくれと言い放ち…。先週、四三さんがスヤさんに何だか冷たい感じだったので心配していましたが、むしろベタ惚れだった。安心した。だからこそせつない別居婚。妻を「スヤ」と呼ぶか「スヤさん」と呼ぶか逡巡する四三に泣き笑い。せっかく東京まで行った嫁を泊めないなんて、あんたんとこの弟はどうなっとる! と、金栗家に乗り込む池部幾江役の大竹しのぶ――祝! 菊田一夫演劇賞大賞受賞――のド迫力。何か言われる前から平身低頭の実次(中村獅童)。爆笑。四三からの手紙の文言の意味を解説してもらい、義母幾江を肩ポンするスヤ。おお、あひる憧れの“大竹しのぶ肩ポン”〜!
 一方、若き日の志ん生こと孝蔵(森山未來)は豪快な無銭飲食で牢屋行き。そこで師匠橘家円喬(松尾スズキ)の死を知る。師匠を思いながら、落語にはうるさいと自負する牢名主の前で熱演する孝蔵。孝蔵の思い出の中、噺を語る師匠――何かが降りてきているような、松尾スズキの噺。そして、志ん生を演じるビートたけしが、このところめちゃめちゃのってきているのを感じる! 数回前の、「そのころ、あたしはあたしであたしが心配だった」というたけしの語りがツボにはまって、よくよく思い出して噛みしめており。
 妻へのラヴを振り切ってまで走り続ける四三。しかし、戦局悪化によりベルリン・オリンピック中止のニュースが…。ストックホルム・オリンピックの競技の途中で走り続けられなくなったこと。そして、ベルリン・オリンピックの中止。…観ていて、「――あなただったら、こんな現実にある選手に、いったいどんな言葉をかけますか?――」と問われているかのように、胸を締め付けられるように感じるときがある――時空を超えて、そんな現実にある選手に言葉をかけるという難業に、脚本の宮藤官九郎は向き合い続けているわけである。
 ――私は、1972年生まれである。物心ついて最初にふれたオリンピック、それは、ソ連のアフガニスタン侵攻により、日本がボイコットした1980年のモスクワ・オリンピックだった。世界各国が参加するということになっているスポーツの大きな大会だけれども、紛争や政治的状況によっては必ずしもすべての国が参加するわけではない、それが、人生における、オリンピックに対する最初の認識なのである。そのことは、私のオリンピック観に大きな影響を与えているように思う。どこかで、――無事開催されてよかった――と、いつもまずは思う。昨年の平昌五輪もそう思っていた――1982年にウィンタースポーツの盛んなカナダに行ったので、1980年の次の1984年はロサンゼルスというよりはサラエボ、そしてカルガリーと、歴代冬季開催地の方をどうも先に思い出す(フィギュアスケートのブライアン・オーサー選手の全盛期!)。
 モスクワ・オリンピックの記憶が強くあるから、当たり前のようにきちんきちんと開催されている昨今を幸せに思うし、オリンピックを無事開催するために紛争はできるだけ避ける方向に世界全体がなっていって、そして、究極的には紛争もなくなっていったら…と思っていて。アホのように思われるかもしれないけれども、日々、「今、自分がどのように行動することで、世界から戦争をなくす方向に向かえるか」を考えて生きていたりするので。難しい。人はそもそもなぜ争うのかということから考えなくてはならない。けれども。
 今回の『いだてん』のサブタイトルは、『ベルリンの壁』。――1980年、モスクワ・オリンピック当時、世界はまだ西側諸国対東側諸国の冷戦下にあった。1982年にカナダに行って、アメリカのニュース番組も視るようになった影響で、冷戦構造をひときわ強く意識するようになった。そのころ、まさか冷戦が終わる日が来るなんて思ってもみなかった。けれども、1989年11月、ベルリンの壁は崩壊した――大学受験を控えた高校三年生だったので、「…これ、世界史で出題されたりする?!…」という非常に現実的なとまどいもあったけれども。
 だから、私は知っている。世界はときに大きく変わり得ることを。一人一人の思いが合わさって大きなうねりとなり得ることを、リアルタイムで知っている。だから、生きている時間の最中は、世界を少しでもよくする方向へ、微力ながらも努力していきたいし、ベルリンの壁を歴史的事実としてしか知らない若い世代にも、この世界は決してフィックスされているものではない、一人一人の力を合わせて変え得るものだということを伝えていきたい。後世の人々が、歴史書を紐解いて、「戦争なんて愚かなものが存在した時代があったんだね」と振り返ることができるようになったら――。
 つくづく、『いだてん』は、スポーツを通じて、大きなテーマと向き合っている作品だと思う。傷心の四三さんにスヤさんはどんな言葉をかけるのか、自分だったらどんな言葉をかけるのか考えながら、次週まで…。ちなみに、次の日曜日は家族行事もあり、更新は月曜か火曜となる見込みです。
2019-04-28 23:59 この記事だけ表示