『いだてん』十九回目〜[ドラマ]
 …一週間があっという間だった! 仕事の合間に「旧新橋停車場 鉄道歴史展示室」に行き、嘉納治五郎や金栗四三がストックホルム・オリムピックに向けて旅立ったころの新橋停車場に思いを馳せており。
 今回のサブタイトルは『箱根駅伝』。――今年になって箱根にたびたび行っているあひるですが、当初は『いだてん』とはまったく関係ない理由であった。母校成蹊学園の寮が芦ノ湖畔にあり、小学校のころから夏の学校などでよく行っていたので、海賊船行き交う湖が懐かしくなって、久々に足を運んだところすっかりはまってしまったという。ちなみに、成蹊の寮の隣は小田急山のホテル。というのも、三菱財閥の第四代目総帥岩崎小彌太が成蹊学園の大パトロンで、岩崎家のゴルフ場の敷地を学園に寄贈、戦時中、生徒たちが疎開していたこともあったそうな。そして戦後、小彌太の別荘の跡地に山のホテルが建てられたという。子供のころは知らなかった歴史を、大人になって振り返ってみるといろいろ興味深く、近頃、箱根に関する本もいろいろ読んだりしていて。そこへ、『いだてん』箱根駅伝エピソード。
 第一次世界大戦ゆえ中止になったベルリン・オリンピック。けれども、次回はベルギーのアントワープで開催されることに! クーベルタンからの親書を、舌を出しながらみんなに見せる嘉納治五郎(役所広司)の表情が実にお茶目なり。次こそは! 心逸る金栗四三(中村勘九郎)。日本中を走ってしまって、もう日本には走る道がない、じゃあ次はアメリカ横断だ! …でも、それには、何人ものランナーで走った方が遠くまで行ける。そのためにも、富士山近い箱根で駅伝をやろう! …しかし。彼は池部家の養子なのだった。冷水浴をしようとする彼を、汲んだ水に映る故郷の人々が次々に責めさいなむ。なかでも強烈なのは義理の母の幾江(大竹しのぶ)。ピシャっとド迫力。…当初、正月返上も覚悟していた四三なれど、久々故郷に帰ることに。遠距離結婚だからか、いつまでも初々しいスヤ(綾瀬はるか)との夫婦姿。
 一方、治五郎先生には悩みが。…ない。アントワープ・オリンピックの種目の中に、マラソンがない! とてもじゃないが、張り切っている四三には言えない。どうする?
 そんな中、第一回目箱根駅伝、始まる。その模様を、古今亭志ん生(ビートたけし)の弟子、五りん(神木隆之介)が創作した「箱根駅伝落語」で聞かせるという趣向。駅伝同様、リレーしての落語で。でも。噺家、志ん生と五りんと兄弟子の今松(荒川良々)の三人しかいない…と思っていたら、何と。若き日の志ん生こと美濃部孝蔵を演じている森山未來が、志ん生の長男・金原亭馬生、そして次男・古今亭朝太として一人三役。シュール! 見事襷はつながれ、最後に志ん生が貫録で締めくくったところでドラマもまさに終わるという時間の流れがあまりに快感! 森山の演じ分けもナイスなり。
 先頭を走っていたのに、最後の最後で転んでしまった走者を、岸清一(岩松了)が駆け寄って励ます――マラソンにも駅伝にも冷ややかだったのに、治五郎先生の情熱に巻き込まれて、一緒になってゴールに駆け付けたら、心射抜かれてしまったのである。いつもニヒルでシニカルな風だった彼が、ランナーがゴールするまで懸命に励ます。そして彼は治五郎先生に言う。「マラソンのないオリンピックなんて…!」
 あひるも思う。マラソンのないオリンピックなんて! ――あひるの子供時代のクリシェで言えば、「クリープを入れないコーヒーなんて」と言うところ。オリンピックのたび、何々は正式競技から外れたとか話題になるけれども、マラソンと言えばオリンピックの絶対的な花形、数々のドラマが生まれる競技、ストックホルム・オリンピックでのフランシスコ・ラザロ選手の死を乗り越えた以上、外れる可能性があったとはよもや思ってもみなかった。――子供のころから見てきた、オリンピックのマラソン選手たちの力走を思い出す。最近では、2012年のロンドン・オリンピックのマラソンを実家で見ていて、「あ、あそこ行ったよね。あそこも映ったね」と母親とわいわいやっているのを、在りし日の父親が隣で聞いていた、そんな思い出が。
 知らなかった歴史を、大人になって振り返ってみるといろいろ興味深く。私の関心と『いだてん』で描かれている時代とが重なるのも、そこのところなのだろうと思う。今、現状はこうなっている。それはいったい、どのような歴史の流れによるものなのか。何か問題が生じたとしたら、歴史を遡ることによってその解決を図れないか、そんな意識があり。
 学生たちが事前に箱根の山を下見してズルして近道しようとしていたけれども、近隣の人たちが案内してくれちゃってズルできなかったとか、復路の朝、雪が積もって中止も考えられたけれども、湯治客まで雪かきしてくれて無事走れたとか、みんなを励ます四三が選手と一緒になって全五区一人で走っちゃったとか、今とは大違いの第一回箱根駅伝のエピソードにびっくり〜。でも。駅伝、いいですね。一人じゃ走れないような距離でも、大勢なら走れる。走り継いで行ける。遠くまで行ける。まるで人生のアナロジー。金栗四三や嘉納治五郎の情熱が、大勢を巻き込んでゆく。大きな渦を創り出してゆく。――この人たちがいたから、今がある。私は近代建築を見ていて何が好きかというと、「過去の時代とつながっている」という感覚を味わえる瞬間が好きなのである。そして、過去と今、自分と歴史とがつながっている感覚を味わえる大河ドラマも。
 初めて見た駅伝、マラソンに感動し、ランナーを必死に励まし、男泣きする、そんな岸清一を演じる岩松了の姿に心打たれた――彼が男泣きする前から泣いていた。そんな岸や、金栗、ランナーたちの姿に、治五郎先生はクーベルタンに手紙を書く。オリンピックにマラソンを…!
 次回も楽しみ!
2019-05-19 23:15 この記事だけ表示