『いだてん』二十六回目〜〜〜[ドラマ]
 今日は外出していて、20時からのNHK総合での放映にしか間に合わない、はずが。ラッキーにラッキーが重なり、無事に18時からのBSプレミアムでの放映を視聴。…すばらしい回! 18時から観るよう、呼ばれたんだな…と思った。あんまりすばらしかったので20時からもまた観た!
 『明日なき暴走』。日本人初の女性オリンピアンにしてメダリスト、人見絹枝の物語。
 ありがとう、宮藤官九郎!
 関東大震災で行方不明になってしまったシマちゃん先生(杉咲花)が、かつて岡山で出会い、スカウトした人見絹枝(菅原小春)。当時としては大柄だった彼女が陸上競技に励む姿に、「化け物」だの「バッタ」だの「六尺さん」だの、心ないヤジが飛ぶ。…今から30年ほど前。言われたことがありました。正確には、後に夫となる人間に向けられた言葉ですが、「自分と偏差値同じか、もしかしたら上かもしれない女に、よく欲情するね」と。…思い出して、古傷が傷んだ。でも、私より前の世代は、遡れば遡るほどさらにひどいことを言われていたかもしれず…。私が今こうして存在するのも、志高い諸先輩方のおかげです。それにしても。東京大学の門戸は戦後になるまで閉ざされていたけれども、東北帝国大学は文部省を押し切って1913年(大正2年)に早くも女子生徒を受け入れているんですな。
 結婚して子供を産むことが女の幸福なら、私は幸福にならなくてもいい…と絹枝さんは言う。…『ベルサイユのばら』のオスカル・フランソワ・ド・ジャルジェを思い出した。今年初め、ある外国人の男性演出家が言った。「#MeToo運動のおかげで、あなたも20年前より自分の意見が聞き入れてもらいやすくなったと感じているのではないですか」と。あひるは思った。日本にはオスカル様がいて、というか、実在はしないけれども、日本の女の子の精神的支柱として存在していて、「女にだって意見を述べる権利はある!」と、#MeTooのずっと昔から言っているしな…と。それに、20年前に自分の意見が聞き入れてもらえなかったとしたらそれは自分がまだ未熟だったからだろうとも思うし、私個人としては、日本舞台芸術界で、「お前は女である、だからお前の意見は聞かない」という人と出会ったことがない。もちろん、出会っていないだけかもしれない可能性は排除しないし、#MeToo運動の功績を否定するものでも決してないけれども。っていうか、あなたの国ってまだまだそんなに不自由なんですか? 大丈夫? …とびっくり。その演出家に、今回の『いだてん』を観てほしいものである。
 メダルも結婚もどちらも手にお入れなさい、そして女子スポーツ界に革命を! と、絹枝さんの恩師二階堂トクヨ先生(寺島しのぶ)は言う。あひるも常々そう思ってきた――恋と仕事、どっちを取る? みたいな話、好かん! どうして両方手に入れちゃいけないの? 性別関係なく、正々堂々と闘って、それぞれが自分の欲しいものを手に入れればいい。
 1928年のアムステルダム・オリンピックで、女子陸上競技も正式種目に。しかし。人見絹枝を派遣すべきか、否か。女子スポーツ普及に尽力した金栗四三(中村勘九郎)さえも、…あのプレッシャー、女子には大変過ぎるのでは…と否定的。しかし。まーちゃんこと田畑政治(阿部サダヲ)は、選手一人にプレッシャー負わせないで、監督が何とかしてやれ! と、すばらしい弁舌で人見絹枝出場を半ば強引に決めてしまうのだった。否定してすぐさま肯定する芸風で大いに印象付けた前回ですが、今回、肯定して否定するパターンと、否定して肯定してやっぱり否定するパターン、二種のアレンジ技が出ました。
 シベリア鉄道に乗り、アムステルダムへと向かう絹枝は、“姉御”と呼ばれ、男子選手の洗濯や縫物をし…って何じゃそりゃ! と突っ込もうとしたら、志ん生(ビートたけし)が「ひでえ扱いですな」って代わりにちゃんと突っ込んでくれた!
 東京とアムステルダムの時差は8時間。現地に行けず、新聞社で電信機にモールス信号による通信が入るのを待つまーちゃん。現地アムステルダムでは絹枝にめちゃめちゃメダルへのプレッシャーがかかっている――そして100メートル、決勝進めず。電信に呆然とするまーちゃん。しかし絹枝は、走ったことのない800メートルへの出場を決意する。このままでは日本に帰れない。ここで帰ったら女はダメだと言われる――と。演じる菅原小春は、瞳がとてもいい。どこか憂いの中に凄絶な決意を秘めた、強いまなざし。ドラマ映像に実録フィルムが挿入されて描かれるレースの模様――これは本当に、現実に、起きた出来事である…ということが、より強調されて。
 銀メダル!
 化け物と言われたけれども、世界に出たらそれが当たり前だった…とラジオで語る絹枝さん。「日本の女性が世界へ飛び出す時代がやって来たのです」――メダルを見せられ、恩師トクヨさんも実にいい笑顔。彼女に「ご幸福ですか」と問われ、絹枝は答える。「はい」と。――でも、絹枝さんは、レースのあった日からちょうど3年後の同じ日、亡くなってしまう。彼女に、4年後はなかった。次のオリンピックはなかった。
 …心にずーんと来過ぎて、涙さえ出なかった。
 でも。人見絹枝が跳び、走る姿に励まされた多くの人たちの心に、彼女は生きる。そして、彼女に励まされて己の人生を闘った人たちの姿もまた、多くの人たちの心を励まして…。そう考えると、死とは決して終わりではない…と思う。闘って生き、そして死んだ人たちのように、自分も闘い、そして生きようと思う。闘う多くの仲間と共に。
 だから。
 ありがとう、宮藤官九郎!
 それにしても第二部、ますますスピードアップしてスパーク! 観返してもやっぱり、泣いて笑って…。おもしろい! まーちゃんを演じる阿部サダヲの演技に、心地よく軽快なリズムがある。言いたい放題言っていてもどこか憎めない男の愛嬌。「化け物」も、阿部まーちゃんが言うと「あんた、すげえよ」という賛辞にも感じられて。水泳競技でのメダル獲得に、宙を平泳ぎして祝う姿もいとキュート。松澤一鶴を演じる皆川猿時――舞台でのイメージとは何だかちょっと違うハンサムぶりに、ドキ!――との掛け合いのはずむことと言ったら! 絹枝さんにまーちゃんが「化け物」言ったら一鶴さんが即座にペチと頬を張っていた(笑)。
 元気出た! 明日も取材!
2019-07-07 23:35 この記事だけ表示