『いだてん』二十八回目〜[ドラマ]
 …観終わって、ずーんと来て、涙してしまった…。
 第二十八回『走れ大地を』。
 翌年となったロサンゼルス・オリンピックに向け、「メダルガバガバ大作戦」を立てたまーちゃんこと田畑政治(阿部サダヲ)は、その前哨戦として「日米対抗水上競技会」を神宮プールで開催することに。結果は日本の圧勝、なれど満足していないまーちゃん。体協の理事に推されるも、「よけいな看板はまっぴらです」と即座に断る。理事は大っ嫌いだ、ヒゲはやして…と宣うまーちゃん。まるで早口言葉のようにテンポよくリズミカルな阿部サダヲのセリフが心地いい。そんなまーちゃんを、「ヒゲは生やさんでいい!」と嘉納治五郎先生(役所広司)、一喝。…いえ、宝塚歌劇団にも、ヒゲがこの上なく似合う理事、轟悠がいてですね(笑)。『風と共に去りぬ』のレット・バトラーやアブラハム・リンカーンといったヒゲ役を得意として来ましたが、火曜日には新たなヒゲ役に挑む主演作『チェ・ゲバラ』が日本青年館ホールにて開幕〜
 治五郎先生は、永田秀次郎東京市長(イッセー尾形)との会合にまーちゃんを連れていく。「関東大震災から立ち直ったニッポンを世界に見せたい!」と、東京でのオリンピック開催につき、大いに意気投合する市長&治五郎先生――永田市長のセリフに、来年の東京オリンピックに寄せる作者の想いを感じて。渋る体協の岸清一会長(岩松了)を、ストックホルム・オリンピック参加だって私の戯言から始まった話だよ! と熱く説得、見事了解を得てハグする治五郎先生。
 しかし。1931年。満州事変勃発――。
 ここの描き方が実に巧い。30年後の戦後に飛ばして、軍部の自作自演につき、当時はどう報道されていたんですか――と、五りん(神木隆之介)に尋ねさせる。――当時は真実を報道できない。新聞は軍に目をつけられている。ロサンゼルス・オリンピック応援歌募集で頭がいっぱいのまーちゃんは「不謹慎だぞ」と言われる。え、これって、関東軍の仕業なの? とびっくりするまーちゃん――まあ、政治部の記者として、その反応はどうかと思うが。そんなまーちゃんに、新聞はもうだめだ、庶民の暮らしを変えられない、自分は代議士になると告げる河野一郎(桐谷健太)。本気で記者を続けるつもりなら、特ダネでもとってみろと言われ、ノコノコと高橋是清(萩原健一)のところに赴くまーちゃん。アムステルダム・オリンピックのおみやげと称して木靴を渡し、その木靴で頭を叩かれる(笑)。ここのやりとりがもう、役者同士の心の交流そのままがにじみ出ているというか、ショーケンが本当にいい顔して、ニヤッと笑うんですよね…。是清に対してはまーちゃんも、「はい、いや、はい」と、得意の肯定⇔否定コロコロも一応丁寧語。そんなところに犬養毅がやって来て、まーちゃん、犬養内閣成立を見事初スクープ、「田畑の記事で〜す」と得意満面。そんなまーちゃんに、「スポーツが盛んなうちは国は大丈夫だ」と言い残して新聞社を去る河野一郎。
 1932年、満州国独立。これを認めぬ政府に対し、逸る軍部。――記者出身ゆえ気さくに取材に応じたという犬養首相のもとを訪れ、5月15日のロサンゼルス・オリンピック応援歌の発表式典への出席を頼むまーちゃん。満州国を認めるつもりはない、と首相。武力に訴えてはならない。人間同士向き合って話せばわかり合えるんだよ。そして重ねて言う。スポーツはいいな、戦争は勝つ方も負ける方もつらく苦しいけれども、スポーツは勝っても負けてもすがすがしい、と。「勝たなきゃだめです」とまーちゃん。ううむ、個人的には、まーちゃんのメダル偏重主義にはちょっとついていけないのですが。
 神田YMCAプールでの代表選考合宿でも、そんなまーちゃんの態度が波紋を呼ぶ。日本人は情に厚すぎる。ベテランより、若手を! ベテランに対し、平気で「練習台になってくれ」っておいおいおい。でも、確かに、起用とはいと難しき問題なり…。
 一方、期待の星、前畑秀子(上白石萌歌)はスランプ。心配する監督の鶴さんこと松澤一鶴(皆川猿時)に彼女は言う。父母からのプレッシャーが強すぎる、と。ご両親に手紙を書こうか? いえ、彼女のもうご両親は亡くなっているんです。夜な夜な枕元に――って、お化けが出るの〜〜〜? とおびえる鶴さんいと愛おし。しかし。優しく語りかける鶴さんをスルーして、秀子の目は、若い小池禮三の練習台になってくれ――と満州から呼び戻された鶴田義行(大東駿介)に釘付けに。その秀子の目線を追おうとする鶴さんの顔芸いとおかし。鶴田は戻って来たものの、お前は連れては行くが試合には出さないとまーちゃんに言われたキャプテン高石勝男(斎藤工)がブチ切れ。なんなんすかあの人! 自分は泳げるんですか! と癇癪を起こすキャプテンをなだめる鶴さん。――まーちゃんには、何かよくわからない魅力があると。あちらこちらでやらかすまーちゃんの絶妙フォローで、今回、鶴さん大活躍〜。
 ロサンゼルス・オリンピック応援歌、48000通の中から選ばれたのは、「走れ大地を」。5月15日の発表式典のリハーサルで、指揮者がちゃんといるのに自分も指揮の真似事をしてオーケストラと合唱隊にあれこれ指導のまーちゃん。しかし。犬養毅の屋敷に暴漢が闖入。あまりに名高い、「話せばわかる」「問答無用」のやりとり。銃声。――わかっていた。5月15日に何が起こるか。そのとき、「話せばわかる」と首相が言うことも。だから、さきほど、犬養毅がまーちゃんに告げた、「人間同士向き合って話せばわかり合えるんだよ」というセリフから、胸に刺さっていた。銃を持った人間に襲われた際もあくまで対話を試みようとした人間と、そんな人間を「問答無用」の一言で撃つ人間と。そんな両者の間に、対話が成立する日は来るのだろうか――撃たれた人は、それでもなお、今の若い者を呼び戻して来い、話して聞かせることがある、と言うのだった――。
 式典は中止。その夜、犬養毅死去。
 まーちゃんは、照明の消えた夜のプールで、足で水をばしゃばしゃ蹴りながら、「走れ大地を」を一人、歌う――。
 このままでは、新聞が軍の広報になってしまう。しかし、これ以上軍に睨まれたら潰されかねない、と上司の緒方竹虎(リリー・フランキー)。こんなときにオリンピック…と言われたまーちゃんは、「こんなときだからこそオリンピック!」と高らかに宣言する。その思いは、治五郎先生も同じ。壮行会で彼は言う。こんなときだからこそ、と。国際社会で孤立しつつある日本を背負って頑張ってくれ――と。
 …背負わされているものが、大きすぎる。
 それでも、選手たちは旅立っていくのだ。ロサンゼルスの青空のもとへ――。
 何だか。なぜ、自分が今年、毎回『いだてん』について書くことになったのか、どんな使命のもとそんな成り行きになったのか、おぼろながらも見えてきた気がする今回。爆走する『いだてん』と共に、あひるも爆走し続ける所存。
2019-07-28 23:43 この記事だけ表示