『いだてん』三十二回目〜[ドラマ]
 「高円寺阿波おどり」のお囃子が聞こえてくる中、18時からのNHKBSプレミアムの放映を視聴、そして「阿波おどり」へ。20時、今年の「阿波おどり」終了の瞬間――最高に盛り上がる瞬間――を踊り手、観客で分かち合ってから、50メートルくらい家まで“いだてん”ダッシュして再び視聴〜。思った。阿波おどりも、オリンピックと同じようなお祭りである! というわけで今宵は、街にいまだ阿波おどりの熱気残る高円寺よりお届けしております。阿波おどり、惜しくも見逃しちゃった方は、歌舞伎座で27日まで上演中の『八月納涼歌舞伎』第二部「東海道中膝栗毛」へどうぞ。松本幸四郎と市川猿之助が演じる名コンビ“弥次さん喜多さん”が、とろろまみれになりながら、阿波おどり、踊っちゃってます(なぜ、とろろかは、観てのお楽しみ!)。金栗四三(中村勘九郎)ならぬ女アスリート「金栗お三四」(おみよ、演じるは弟・中村七之助!)も登場、『いだてん』オープニングテーマに乗って花道を走り抜けちゃいますぞ〜。
 第三十二回『独裁者』。
 ロサンゼルス・オリンピックで大活躍した日本の水泳チーム。しかし、永田秀次郎東京市長(イッセー尾形)は、銀メダルを獲得した前畑秀子(上白石萌歌)に、「なぜ金メダルを取って来なかったんだね」と声をかけるのだった。「だったらあんたが泳いでみればいい!」とまーちゃん(阿部サダヲ)。…あひるもホントそう思う。そして、「これは選手を讃える会じゃないのか」と、岸清一(岩松了)も食ってかかる。国を背負って闘っている者は、選手も、我々役員も命がけなんだよ! いつになく熱い岸会長。永田市長のことを、延びたうどんみたいな顔だの、それじゃうどんに失礼だ、さっさと引退して縁側で俳句を詠めだの、言いたい放題。珍しく、まーちゃんの方が止める展開に。「申し訳なかった」と永田市長。期待していたのは自分だけじゃなく、全国民だ、と。悪気はないんだよな…。その言葉通り、秀子さんのもとには日本中から、四年後の捲土重来を期す手紙が寄せられ。「わからへん」と秀子さん。四年後には自分は22歳、そんな歳まで泳いでいる女なんていない、それじゃあ河童の秀ちゃんだ、と。そんな秀子を案じ、夢枕に、死んでしまった父と母が立つのだった――このあたりのシュールともいえる展開が、ツボ。「うち、悔しいん?」「そんなに金メダルが欲しいん?」と両親に尋ねる秀子さん。やり始めたことを途中でやめたらあかん、とお母さん。銀メダルって途中? 途中よ。プールサイドに立つ秀子さんを、まーちゃんが叱咤激励し、秀子さんは浴衣を脱いで水着姿になって泳ぎ始める。――夢。がばと起きた秀子さんは、夢の中同様、浴衣を脱いで水着姿になり、「悔しい! 悔しい! 悔しい! 勝つんだ! 勝つんだ! 勝つんだ! 金メダル!!!」と泳ぎ始める。こうして、四年後に向けた秀子さんの闘い、早速スタート。…いや、「前畑ガンバレ」に至るまでに、こんな物語があったなんて。事実の断片として知っている歴史、その流れを知ることができる楽しさ。これぞ、歴史を扱う大河ドラマの醍醐味じゃんね!
 ロサンゼルス・オリンピックの余韻にいまだ浸るまーちゃんは、体協理事のポストになおも消極的。ロスに行けなかった野口源三郎(永山絢斗)はそんなまーちゃんに不満をぶつける。ピンポンボールとセリフを同時にラリーする二人。「お留守番ピック」ってまーちゃん、貴方は口から生まれてきたようなお方。日本人がスポーツに関心をもち、熱狂してくれるのはいいことだ、しかし、と、何だか違和感を覚えているまーちゃん。そこへ、岸会長。ロサンゼルス・オリンピックの報告と、東京への招致について、天皇陛下に御進講してきたのだった。天皇陛下に会えた喜びを語る岸さん。
 しかし。ドイツの首相になったヒトラーは、ゲッベルスの助言を受け、1936年にベルリンでオリンピックを開催することに。1936年の開催地がローマに行って、1940年は東京に来る…との当ては外れた。しかも、招致推進派の永田市長は、部下の汚職の責任をとって辞職。「いいオリンピックにしてください」との言葉をまーちゃんに残して。そんなまーちゃんの前に、「Stupid kappa」なんて英語でしゃべるキザな男、現る。「表へ出ろ!」と言うも背負い投げを食らうまーちゃん。キザ男の正体は。元国際連盟事務次長で、日本の国際連盟脱退により失職した杉村陽太郎(加藤雅也)。柔道六段で、嘉納治五郎先生(役所広司)の弟子。そして流れで招致委員にされるまーちゃん。すっかり治五郎先生にかわいがられてます。
 新聞社でもオリンピックの思い出話ばかりのまーちゃんに、上司の緒方竹虎(リリー・フランキー)は、回顧録を書け、ただしそれは夜、昼は仕事しろ、と。まーちゃん、上司の言うこと半分くらいしか聞いてない(笑)。「また行きたいなー」と回顧録を執筆するまーちゃんに、菊枝さん(麻生久美子)、毎夜おいしい夜食を差し入れ。さすがに菊枝さんが気になってきたまーちゃん、バーのママ、マリーに打ち明け話。俺は、水泳に夢中になったように、あの女に夢中になれるのか。「酒井菊枝、地味な女」の発語が実にリズミカルで聞いていて心地よい、菊枝さんには大変失礼な言葉なれど。マリーの占いは、お見合い相手とその人、どちらとも結ばれないわ。しかし、ママの占いはいつも逆に的中、ということは、どちらとも結ばれる!? 「気になっている人がいますので」と、露骨に菊枝さんを見ながら竹虎さんからの見合い話を断るまーちゃん。残念だけど…と、菊枝さんにお断りの話をする竹虎さん。あれ? と、やっとちゃんと見合い写真を見るまーちゃん。菊枝さんこそ竹虎さん紹介の見合い相手でした!  って、おいおい(笑)。「結婚しよう!」とまーちゃん、即座にプロポーズ。菊枝さん、うれしそう。ということで、めでたく二人は結婚〜。レースのあしらわれたブラウス、そしてウェディングドレスにヘッドドレス、菊枝さんのレトロな装いがシックで素敵! そして、「口が悪いということは、心は口ほど悪くないということですから」と、日ごろ無口なれどぼそっと口にする言葉が、深い。新聞社での結婚式の余興には、「古今亭志ん馬」と名乗る若き日の志ん生こと孝蔵(森山未來)も登場、まーちゃんと悪口の応酬〜。孝蔵役の森山未來、顔にますます凄みが出てきた。ラジオ出演などで何とか食いつないでいる孝蔵、その噺を、金栗四三のいる熊本の池部家でもラジオで聞いており。そこには、四三の著書『ランニング』を読んで感銘を受け、九州一周マラソンをしようと、小松勝(仲野太賀)なる青年の姿が。彼の両脚をいきなりしげしげと検分、運動足袋をプレゼントする四三さん。二人して「ヒャー」と水浴びし、42歳の四三さんも共に九州一周へ。…そして、熱を出して高座を休んでいた五りんも、「死んだ親父の言いつけなんで」と水浴び。…ということは?
 新市長牛塚虎太郎(きたろう)のもと、東京は「悲願」としてオリンピック招致を目指すことに。しかし、岸さんは入院。そして、東京への招致を夢見つつ、「きれいな花だ」の一言を遺し、急逝。死去の報せを帰国の船上で知った治五郎先生は、涙も出ない、男泣きは君の専売特許だったもんね、と。その遺影に、まーちゃんも、体協理事となり、オリンピック招致に尽力することを誓う。シニカルに見えて、実は感激屋、熱い篤い男だった岸清一会長――演じる岩松了の新たな魅力を知ることのできた役柄でした。ちなみに、岩松了作・演出の最新作『二度目の夏』は今週、名古屋と神奈川にて公演。ラスト十分くらいでのあっ! と驚く展開、お見逃しなく。ご本人も、犬好きの近所の電気屋役でいい味出してます。
 さて。アテネでのIOC総会から帰国した治五郎先生は、いつになく悲観的だった。このままじゃローマには勝てん。「独裁者がいると仕事が早いね」と、牛塚市長。君も自分の意見を言え! と言われ、まーちゃんは弁舌を奮う。掲げたテーゼ。
…誰のための、何のための、オリンピックか。
ただのお祭りですよ。走って泳いで、それでおしまい。オリンピックに何を期待してるの?
 簡単に考えましょうよ。このままではローマに勝てない。逆らわずして勝つの嘉納さん、どうする? と聞かれ、治五郎先生、一言。
「譲ってもらうのはどうだろう」
 …誰に? 何を?
 ムッソリーニに、オリンピックを。直接会って譲ってくださいって頼んだら、案外譲ってくれるかも。
 …仰天。意表を突かれた。そして爆笑!!!
“お得意の開き直り発言”と、作中描写されていましたが。譲ってくださいって! そういうもんなの、開催地って?
「よし、譲ってもらおう!」
 こうと決めたら治五郎先生、早い。日本の魅力を伝える資料を作れ、写真集がいいと、まーちゃんに命じ。いや、もう、演じる役所広司がフルスロットルで加速して、オリンピックに取り憑かれた男のある種の狂気を体現。そんな役所広司が、愛おしい。譲ってもらおうって…。譲ってもらおうって…。今も、思い出し笑いが止まらない。
 見事、治五郎先生も絶賛の写真集『日本』を作成したまーちゃん――阿部サダヲの目にも、次第に、オリンピックに取り憑かれた男のある種の狂気がきらめくのを感じた今回。しかし。写真集を手に、海外を説得しに回ろうと立ち上がった治五郎先生の身に、異変が――?
 『いだてん紀行』。出ましたね、ジャパン・オリンピック・スポーツ・スクエアの岸清一の銅像。子孫の方も、銅像の姿に似ていたのでした。
2019-08-25 23:29 この記事だけ表示