宝塚雪組公演『20世紀号に乗って』→『壬生義士伝』『Music Revolution!』[宝塚]
 3月に雪組がシアターオーブにて上演した『20世紀号に乗って』は、ハワード・ホークス監督の映画『特急二十世紀』を基にしたブロードウェイ・ミュージカル。時は1930年代、今は落ち目の演劇プロデューサーと、彼の元カノである女優、彼女の今の恋人である俳優らが、シカゴからニューヨークへと向かう豪華列車「20世紀号」に乗り合わせて巻き起こる大騒動を描いたコメディである。シアターオーブでは海外ミュージカルの招聘公演が数多く上演されているが、雪組版『20世紀号に乗って』も、トップ・コンビ望海風斗&真彩希帆の図抜けた歌唱力、そして芝居心に富んだ雪組生&専科から参加の京三紗(裏ヒロイン!)の活躍によって、そんな海外ミュージカル公演の一つに接しているような感覚を覚えた。
 なおかつ、潤色・演出の原田諒は、今年105周年を迎えた宝塚歌劇団、その歴史にオマージュを捧げる趣向を凝らしていたのが実に心憎い。冒頭、パンツのサイドにラインの入ったポーター四人が登場する。それだけで、これは、宝塚歌劇が日本で初めて上演したレビュー『モン・パリ』(1927)のラインダンスのオマージュだ! と、心浮き立つものを感じる――『モン・パリ』では、パンツを汽車の動輪に見立てた、本邦初のラインダンスも大きな話題を呼んだ。宝塚で海外ミュージカルが上演される際、本編の後にショーがつくのも楽しみなところだが、この作品では、そのショーの部分で、トップ・コンビも加わっての大ラインダンスが披露された――そこに、宝塚のラインダンスの意味を見る思いがした。宝塚に入団した者は誰もが皆、ラインダンスからスタートする。一糸乱れぬ踊りは、全員で心を合わせてこそ可能となる。優れたトップスターほど、組を率いる箇所と、組の中の一人に戻る箇所と、その切り替えが上手い――そのことを私は、退団し、女優となってからの元トップスターの舞台からも、よくよく学んできたように思う。この場面では真ん中としての役割を果たす。この場面では組の、舞台の一員に戻る、その切り替えがつまりは上手いわけである。私は、望海風斗がそのようなトップスターへと躍進したことを、心からうれしく思った。もともと高かった歌唱力にぐんと包容力が加わり、厚みが増した。相手役の真彩希帆も歌声に艶が出て、ショースターとしても健闘。コメディ作品も行けるコンビであることを大いにアピールした。
 東京宝塚劇場公演『壬生義士伝』は、浅田次郎の同名小説が原作である。浅田作品ではコメディタッチの『王妃の館』(2017)が宝塚でも上演され、客席を爆笑の渦に巻き込んだが、制作発表会での浅田氏の話によれば、『王妃の館』と、幕末の下級武士の悲劇を描く『壬生義士伝』は同時進行で書かれた作品であるとのことで、一人の作家の中に渦巻く内的世界を知る上で非常に興味深いものがあった。望海が演じる吉村貫一郎は、貧困に苦しむ家族を救うため、盛岡の南部藩から脱藩して新選組に加わり、家族を養うために人斬りを続ける――という役どころである。故郷への想い。家族への想い。望海が歌う主題歌を聴いていると、――私自身のルーツの一つでもある東北という地方、その厳しい自然、そこに生きる人々の忍耐強さに自然想いが飛んでゆく――私の母方の祖父の家も、もともとは武士であったのが、どこかの段階で足袋職人へと転じたそうである――。のだが。脚本上、主人公の生き様、その一貫性が少々わかりづらく…。雪組生は日本物作品に強いところを見せていただけに、残念に思った。専科から出演の凪七瑠海も、同期の望海と絡まない役どころだったのがもったいないような…。円熟期にある男役二人の芸のぶつかり合いを見たかった。真彩は、南部に残った吉村の妻と、新選組隊士となった吉村を見初める京都の大店の娘、つまりは吉村を取り合う者同士に挑戦。辛抱強い女性と、勝ち気な女性、二役の演じ分けで力を発揮した。ショー『Music Revolution!』はエネルギッシュなダンスシーン満載。黒燕尾服の踊りもびしっと揃うところは雪組ならでは。
 昨年あひる新人賞堂々受賞の真彩希帆だが。舞台人として、…今、若干迷いの時なのかな、と感じる。それでいいと思う。迷って、あれこれ試して、その中に自分の道を見出していけばいい。雪組全体としては、『ファントム』のころと比べて、かなり迷いが消えてきた。みんな、技術は高いのだから、それをどう活かしていくか、自分自身のその試行錯誤の中にこそ、今後の明るい展望がある。大丈夫! 立派なトップスターとなった今の望海風斗なら、全員まとめて受け止められる!
2019-09-01 00:00 この記事だけ表示