“One Stage More”〜『レ・ミゼラブル:オールスター・ステージ・コンサート』のジョン・オーウェン=ジョーンズ[ミュージカル]
 9月19日夜の部、ロンドン・ギールグッド劇場。
 ――そこは、さながら“戦場”だった。<『レ・ミゼラブル』の有名な歌を歌いたい/聞きたい>人たちと、<『レ・ミゼラブル』を上演するからには、それがコンサート・バージョンであろうと、真実の『レ・ミゼラブル』の物語を伝えたい/観たい>人たちとの。あひるは後者! ――闘いの熱気立ち込める劇場。
 <真実の『レ・ミゼラブル』を伝えたい>派の旗頭は、日替わりで主人公ジャン・バルジャンを務めるジョン・オーウェン=ジョーンズ。そして、芝居の要をがっちり固めるのが、アンジョルラス役のブラッドレー・ジェーデンである――大がかりな舞台装置やその転換に頼れないコンサート形式、演奏会形式ほど、演者の演技力がより一層浮き彫りになることは、今年8月に聴いた<パーヴォ・ヤルヴィ&N響 オペラ『フィデリオ』演奏会形式初日http://daisy.stablo.jp/article/469315262.html?1577597446>でも感じたことである――。ジェーデンは、これまで通常形式の公演で、アンジョルラスに加えてジャン・バルジャンとジャベールを演じた経験もある。誰かが下手をかまそうものなら、俺が代わりにやってやろうか! くらいの勢い――もっとも、ジョン・オーウェン=ジョーンズにその心配はいっさいなかったけれども。彼は、ジャン・バルジャンとして、その歌と演技のうちに、重厚な物語を細やかに、ていねいに語っていくのだった。
 「One Day More」。
 …なぜだろう、ジョン・オーウェン=ジョーンズが、そのたった三音節の三語を発するだけで、こんなにも涙があふれるのは…。それはきっと、その夜その一瞬のことではなく、彼という役者、人間が、これまで生きてきたすべての時間が凝縮されてほとばしるからなのだ。その三語をそのように歌える領域に到達するまでに、彼が費やしてきた膨大な時間を思う。この夜の舞台。そしてまた次の夜の舞台。――“One stage more”。そうして舞台を積み重ねてきた人間の真実が、その刹那にあふれ出る。
 ――『レ・ミゼラブル』を観るのは久しぶりだった。日本で新演出になってからも観ているのだけれども、私の脳裏に焼き付いているのは山本耕史のマリウスである(ということは、2003年か2004年の上演)。そして今回、ジョン・オーウェン=ジョーンズ&ブラッドレー・ジェーデンたちの奮闘のうちに、私は、ヴィクトル・ユーゴーの『レ・ミゼラブル』の物語の一つの軸が、神の意志をいかにこの地上において実現させるべきかをめぐる対立であることに深く思い至ったのだった。<真実の『レ・ミゼラブル』を伝えたい>派の大勝利!
2019-12-29 15:58 この記事だけ表示