芸の“おせち”〜万葉集meetsミュージカル『令和にそよぐ風』の山本耕史
 1月2日16時の部、東京国際フォーラムホールB7。
 …まさか、新年早々、老浮浪者姿でシケモク(死語でしょうか)を拾う山本耕史を観られるとは思わなんだ…(笑)。歌詠み志望の青年(市川染五郎)の前に現れたその老いた男は、ぱっと大海人皇子の姿へと早替わりして、青年を万葉集の歌の世界へといざなう。…愛について。死について。風景について。万葉集の時代から、人々の詠む題材は今と変わらない。そこに、いにしえから変わらぬ人の心を知る。そして今の人々の心を映したミュージカル・ナンバーを歌い出す山本耕史――大海人皇子の姿で、英語で――。『ヘドウィグ・アンド・ザ・アングリーインチ』の「The Origin of Love」。眼鏡とマフラーを装着して、新納慎也と掛け合いで歌う『レント』の「What You Own」。そして楽器も演奏! ドラム! ベース! ギター! ホットにゴキゲン! 正月早々、山本耕史の芸がぎゅう詰めになったおせちのお重を前にしているかのよう。多芸多才。八面六臂。…思った。ここに、こんなに頑張っている人がいる! 己の芸の向上に欲張っている人がいる! だから、自分一人で頑張ろうとしなくていい! 一緒に頑張っていけばいい! …そう思ったら、何だかものすごく気が楽になり。2020年は迷惑をかけない範囲で頼ったり甘えたりすることもテーマにしようと思います(笑)。
『ヘドウィグ・アンド・ザ・アングリーインチ』からの、「Midnight Radio」…。女性ロックンローラーへのオマージュが捧げられた、誇りをもって生きることについての歌。最後の「♪Lift up your hands」のくだりでは、舞台で上演されるときと同じように、(ちっちゃくだけど)右手を上げるあひるであった。
 額田王の扮装で、昨年亡くなった柴田侑宏の名作『あかねさす紫の花』の主題歌を歌う夢咲ねねの、圧倒的な姫感。コミカルなシーンでは、彼女ならではの天衣無縫で無垢な明るさを輝かせて。新納慎也の機転の利いた客席いじりも楽しく――彼は、私に、ブロードウェイ・ミュージカル『パジャマゲーム』のシド役の不思議を教えてくれた人である。ブロードウェイ公演のハリー・コニック・ジュニアも、彼も、シド役を演じるのを観るまで実は内心苦手だった。でも、シドという役は、演じる男性の素敵な部分を素晴らしく引き出してくるところがあるのである――。邦楽、日本舞踊、ミュージカル・ナンバーと盛りだくさんで、でも、芸の力、歌の力によってきちんとまとまっていて、お正月気分も大いに味わえる充実の80分間でした!
2020-01-11 21:05 この記事だけ表示