「うたコン」[テレビ]
 初登場のAIがトップバッターで「Story」を披露。――人は誰しも一人では生きてはいけない。歌い手は歌う。物書きは書く。すべての人々が、そのようにして、それぞれができることを持ち寄って、この世界を互いに支え合って生きている。“三密”を避けなくてはならない今の状況下においては、その、“共に生きている”という事実を今まで以上に意識的に確認し続けていかなくてはならない。そして、歌も、言葉も、その確認において力をもつものだと思うのです。――NHKホールの天井が天空で、その彼方へと想いを飛ばしていくような歌唱。自分自身の弱さを理解した上で、相手の中にもあるその弱さに寄り添おうとするような。
 初対面で初共演、横山剣と城田優が和田アキ子の名曲「あの鐘を鳴らすのはあなた」――パンチの効いた原曲、好きです――をデュエット。――歌声で、心をぎゅっと抱きしめられたような。歌は、心は、ディスタンスを容易に超えていく。50代と30代、人生のそれぞれのフェーズにある男性二人の声の重なりが素敵。
 AIの二曲目は「ギフト」。――逢いたい、行きたい、話したい、そんな自分の願望を、この状況下でそっと押し殺していた、そんなことに改めて気づかされて、涙。けれども、そんな中だからこそこうして出逢えたことに感謝!
 クレイジーケンバンドの「IVORY」は、浜辺に即座にトリップするような、暑さと熱さの気怠さにまったり身を浸すような、大人の夏の1ページ。バンドの一人一人が音で互いと対話する極上のひととき。ジャズクラブでグラスを片手に聴きたい曲(飲めないあひるはノンアルコールで)。
 新浜レオンで「君を求めて」。宝塚の新進男役だったら、「そこはキザって!」と思うところ――にこにこ笑顔より、真剣なまなざしで歌われた方がぐっと来そうな。谷原章介と赤木野々花アナウンサー、司会の二人の客席での熱烈リアクションがナイス!
 歌番組にこの人が出てくると、いつでも、落ち着いて歌の世界に没入できる。香西かおりは私にとってそんな歌手である。今宵の曲は「契り酒」。――最近、永井荷風の『濹東綺譚』を再読していた。昭和初期、麻布からわざわざ銀座、浅草と盛り場を二つも越え、玉の井の私娼窟に通う主人公。小説家である彼はそこで“お雪”と名乗る女に出会う。作者自身の分身であるような主人公にとっては、最初から別れを念頭においての関係。互いに本当の名前も生い立ちも知らない、けれども、心と身体を重ね合ったその数か月の濃密、そこに確かに残るものを、荷風は作品へと昇華させた。そんな世界を連想させる、刹那が宿命づけられた関係を描く歌世界に酔いしれて。
 ラストは城田優が平井堅の「even if」をカバー。彼氏がいる相手への、やるせない恋の物語。せつなさに磨きがかかった、艶のある歌声。――誰かが、歌っている、演じている、踊っている、それを観ているその一瞬は、心はその人だけのものだから。それにしても。『濹東綺譚』の主人公である小説家は“お雪”をミューズと呼んで憚らないのだけれども――恋をしたから書けたのか。書くための恋だったのか――、11月に城田優が演じるブロードウェイ・ミュージカル『NINE』の主人公も、妻と愛人に加えミューズも必要な浮気者の映画監督なのだった。
 本日、特別展「きもの」を観に、本当に久しぶりに美術館へ足を運び、美にふれるひとときを堪能。少しずつ取材も再開し、確かに前に進んでいっていることを実感する日々。明日から7月!
2020-06-30 23:56 この記事だけ表示