宙組公演『FLYING SAPA−フライング サパ−』[宝塚]
 11時の部、日生劇場。思いっきりネタバレ。
 ――地球から脱出した人々が移り住んだ水星(ポルンカ)。人々の生命を維持する装置及びその記憶を吸い上げるシステムを開発してその場所を統べる総統(汝鳥令)は、“娘”(星風まどか)を後継者に指名する。記憶が4年分しかない主人公(真風涼帆)は、人々の意識の中に入り、共同体にとって危険と思われる思想を消す“兵士”だが、ひょんなことから“娘”と共に、望みが叶うというクレーター“SAPA”の奥地へと分け入っていくこととなる。物語のクライマックスで、主人公は総統と対峙する――総統は、後継者たる“娘”とすべての人々の意識とを一体化させる、新たな統治のシステムを開発していた。総統は主人公に、記憶を見せる。総統の過去の。“娘”の過去の。そして、主人公の過去の。
 その対峙を観ていて――私の中で、かつて、ある人が私に向かって手を差し出した記憶が呼び起こされたのだった。その記憶は、現実のものではない。夢で見た。舞台を観た後、夢で見た。その舞台によって、私の意識か無意識に何らかの作用があって、夢を見た。一週間ほど続いた一連の夢の中でもひときわ強烈な夢。――劇場とはときに恐ろしい場所である。今宵の私はどんな夢を見ることか。
 上田久美子作・演出の異色の舞台である。ほぼソロ曲がない。三宅純の音楽(座付きの青木朝子と共に担当)が、内面へ、深層へと分け入っていく作品世界、その道程を彩って蠱惑的である。“宝塚”と聞いて一般的に想像するような要素がないながらも、宝塚歌劇作品として見事に成立している。難しい意欲作に果敢に挑んだ出演者及びスタッフに心からの拍手を送りたい。3月に別の劇場にて上演される予定だったが、コロナ禍によって日生劇場での上演となった。建築家村野藤吾の代表作の一つである日生劇場は、劇場空間自体、何か神秘で深遠なものの内面の表象のように思われるところがあり、縁あって実現した作品世界との親和性をも楽しんだ。
2020-09-07 23:59 この記事だけ表示