藤本真由
(舞台評論家・ふじもとまゆ)
1972年生まれ。
東京大学法学部卒業後、新潮社に入社。写真週刊誌「FOCUS」の記者として、主に演劇・芸能分野の取材に携わる。
2001年退社し、フリーに。演劇を中心に国内はもとより海外の公演もインタビュー・取材を手がける。
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月組赤坂ACTシアター公演『ダル・レークの恋』[宝塚]
18日11時の部観劇(赤坂ACTシアター)。
普通に出逢っていれば、似合いの二人として平穏な結婚生活を送っていたかもしれない。けれども、この物語の主役である男と女は、少しねじれた出逢い方をしてしまった。女は男が自分には身分不釣り合いであると思う。真相を隠す男は女のそんな気持ちを知っている。二人が湖畔で過ごす一夜。――そのひとときだけ、すべてを超越して、二人は真実の愛を交わす。そのひととき、普通に出逢って普通に結ばれていたら訪れなかったかもしれないひとときが、己の生において痛切に大切なものであるからこそ、すべてが明らかになり、二人が結ばれる上で何の支障もなくなったとき、男は去る。そんな愛の逆説を描いて、『ダル・レークの恋』は魅惑的な作品である。初演は1959年、菊田一夫の戯曲を主演の春日野八千代自ら演出、主人公ラッチマンは彼女の当たり役となった。1997年に酒井澄夫が潤色・演出を担当して再演、今回は酒井が監修に回り、谷貴矢が新たに潤色・演出を手がけている。近年では『霧深きエルベのほとり』の再演(2019)もあったが、菊田一夫作品の男女の心の機微を描いて深いところをしみじみおもしろく感じた。青年将校、無頼派と主人公ラッチマンが次々と変化を見せるあたり、初演の際、春日野八千代の男役としての縦横無尽の活躍が見どころであっただろうと想像できる。今回この役に挑んだのは月城かなと。ターバンもよく似合い、ノーブルでクラシックな魅力を見せた。パリでの無頼の日々、脚を組んだ際に膝に乗せた方の足先で、革靴の甲の部分をピカピカと客席に向かって光らせるシーンでは、男役の魅惑の技が炸裂。ゆったりと雰囲気を見せるところのある役を演じて今後への期待を大いに抱かせた。ヒロイン・カマラを演じるのは海乃美月。昔の時代の異国のプリンセスとして、現代女性のシャキシャキとは違う、しっとりとした情感がセリフ回しに欲しいところ。湖畔での場面では、「♪君の瞳に燃えた 不思議な炎 それが愛」と名曲「まことの愛」(作詞:酒井澄夫、作曲:西村耕次)に歌われるところの“不思議な炎”を瞳に観たい。暁千星のすべてを捧げ尽くすような舞に、バレエ『ラ・バヤデール』のブロンズ・アイドルの踊りの如き熱狂がある。彼女が踊りまくるダンシング・ショーを観てみたいものである。
普通に出逢っていれば、似合いの二人として平穏な結婚生活を送っていたかもしれない。けれども、この物語の主役である男と女は、少しねじれた出逢い方をしてしまった。女は男が自分には身分不釣り合いであると思う。真相を隠す男は女のそんな気持ちを知っている。二人が湖畔で過ごす一夜。――そのひとときだけ、すべてを超越して、二人は真実の愛を交わす。そのひととき、普通に出逢って普通に結ばれていたら訪れなかったかもしれないひとときが、己の生において痛切に大切なものであるからこそ、すべてが明らかになり、二人が結ばれる上で何の支障もなくなったとき、男は去る。そんな愛の逆説を描いて、『ダル・レークの恋』は魅惑的な作品である。初演は1959年、菊田一夫の戯曲を主演の春日野八千代自ら演出、主人公ラッチマンは彼女の当たり役となった。1997年に酒井澄夫が潤色・演出を担当して再演、今回は酒井が監修に回り、谷貴矢が新たに潤色・演出を手がけている。近年では『霧深きエルベのほとり』の再演(2019)もあったが、菊田一夫作品の男女の心の機微を描いて深いところをしみじみおもしろく感じた。青年将校、無頼派と主人公ラッチマンが次々と変化を見せるあたり、初演の際、春日野八千代の男役としての縦横無尽の活躍が見どころであっただろうと想像できる。今回この役に挑んだのは月城かなと。ターバンもよく似合い、ノーブルでクラシックな魅力を見せた。パリでの無頼の日々、脚を組んだ際に膝に乗せた方の足先で、革靴の甲の部分をピカピカと客席に向かって光らせるシーンでは、男役の魅惑の技が炸裂。ゆったりと雰囲気を見せるところのある役を演じて今後への期待を大いに抱かせた。ヒロイン・カマラを演じるのは海乃美月。昔の時代の異国のプリンセスとして、現代女性のシャキシャキとは違う、しっとりとした情感がセリフ回しに欲しいところ。湖畔での場面では、「♪君の瞳に燃えた 不思議な炎 それが愛」と名曲「まことの愛」(作詞:酒井澄夫、作曲:西村耕次)に歌われるところの“不思議な炎”を瞳に観たい。暁千星のすべてを捧げ尽くすような舞に、バレエ『ラ・バヤデール』のブロンズ・アイドルの踊りの如き熱狂がある。彼女が踊りまくるダンシング・ショーを観てみたいものである。
2021-02-27 20:22 この記事だけ表示