宝塚花組『アウグストゥス−尊厳ある者−』『Cool Beast!!』&退団者たち[宝塚]
 『アウグストゥス−尊厳ある者−』で描かれているのは、シェイクスピア作品で言うと『ジュリアス・シーザー』と『アントニーとクレオパトラ』の頃である。2011年に蜷川幸雄が彩の国シェイクスピア・シリーズで演出した『アントニーとクレオパトラ』は、吉田鋼太郎のアントニーに安蘭けいのクレオパトラという配役で、男にはどこか踏み込めない女性同士の絆を描くため、クレオパトラと侍女シャーミアン(熊谷真実)のキス・シーンがあった。蜷川演出では、同じシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』が、互いにすべてを捨てて恋の激流に飛び込んでいくような若さゆえの純粋なエネルギーを扱っていることを意識しつつ、年齢もあって互いにさまざまなしがらみがある中でのアントニーとクレオパトラの関係をどこかため息交じりの“老いらくの恋”として描き出していく、その対比が実におもしろかった。東京宝塚劇場の前回公演が星組の『ロミオとジュリエット』だったこともあり、懐かしく思い出した次第。
 男役ながら、退団公演でクレオパトラ(凪七瑠海)に仕える侍女シャーミアンを演じたのは冴月瑠那。前花組トップスター明日海りおにも似た風貌の持ち主で、観る者をほっこりと和ませる個性が魅力。彼女の当たり役は何と言っても、『はいからさんが通る』(2017・2020)で二度演じた、ヒロイン花村紅緒の父・花村政次郎役であろう。ときに厳しく、けれども温かく、娘を見守り続ける帝国陸軍軍人として、威厳と優しさに満ちた演技を見せていた。瀬戸かずやスペシャルライブ『Gracias!!』(2021)でも、同期の瀬戸と並んで花組男役ぶりを発揮――花組の若手男役を観ていると、ソフトな印象を与えるタイプが多い。でも、私は、花組男役はまずはともあれ“キザってナンボ”だと思うのである。そして、ソフトさと“キザってナンボ”は両立し得るものであるということを、冴月瑠那の男役芸は確かに証明している。
 美花梨乃は入団15年目のベテランながら、いつまでも愛くるしい魅力を放つ娘役である。『アウグストゥス−尊厳ある者−』では、ヒロイン・ポンペイア(華優希)に献身的に尽くす元奴隷のレオノラ役。全体的に殺伐として重い作品の中でコミック・リリーフ的な役割も果たし、清涼剤となっていた。『Cool Beast!!』では、やはり今回退団の男役・澄月菜音と組んで、アフリカの花婿花嫁に扮し、新進若手娘役もかくやのチャーミングな民族衣装姿で大いに魅了する。更紗那知は、柚香光が“ギャートルズの肉”をマイク代わりにするシーンでの、猫耳ならぬ狼耳姿のキュートさが光る。
 宝塚生活最後の日、みんな思いっきりはじけちゃって!!!
2021-07-04 00:08 この記事だけ表示