藤本真由
(舞台評論家・ふじもとまゆ)
1972年生まれ。
東京大学法学部卒業後、新潮社に入社。写真週刊誌「FOCUS」の記者として、主に演劇・芸能分野の取材に携わる。
2001年退社し、フリーに。演劇を中心に国内はもとより海外の公演もインタビュー・取材を手がける。
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Kバレエ トウキョウ『くるみ割り人形』その2
[バレエ]
Kバレエ熊川哲也芸術監督の最高傑作にして、カンパニーの今を映し出す演目。今年はめっちゃいい感じ!
広間のクリスマスツリーのファンタジックな巨大化を経て、くるみ割り人形率いる兵隊たち対ねずみの王様率いるねずみたちとの戦いが繰り広げられる第1幕第3場。今年、ロサンゼルス・エンゼルスを中心に大リーグの試合を観てきて、戦う男の表現に厳しくなったあひるですが、くるみ割り人形役の栗山廉の戦う姿勢、きりっとしていてよかった――衣装の上着が赤なのがよけいにエンゼルスを思わせた。ここは芸術監督の芸術上の闘いが示されるところのあるシーンなので、引き締まっているのが◎。そして、くるみ割り人形とドロッセルマイヤー(杉野慧)とクララ(塚田真夕)のパ・ド・ドゥを経て、幕の振り落としにて<雪の国>へのファンタジックな転換――宝塚星組『JAGUAR BEAT−ジャガービート−』の中詰第12場D、銀橋上の赤の神(天華えま)の振りと共に行なわれる振り落としを観ると、『くるみ割り人形』のこの振り落としを思い出し――。芸術監督の出身地は北海道ということで、世にも激しく雪が舞い散る中で展開される<雪の国>ですが、雪の女王役日世菜の踊りが極上だった! 10月の『眠れる森の美女』でオーロラ姫に扮した彼女の踊りを「口の中でほろほろとろけるスペイン発祥の焼き菓子ポルポローネ」にたとえたけれども、雪の踊りは、……私が客席で少しでも身体を動かしたら、雪も、そして、長いようで短い人生の夢のようなきらめきもあっという間にとけてなくなってしまいそうで、そのはかなさが愛おしいがゆえに身じろぎもせず凝視していたい、そんな思いが全身を駆け抜けるものだった……。
そして第2幕、マリー姫役浅川紫織登場。チェレスタの音色そのものになってみたり、さまざまな名演を見せてきた彼女ですが、今年の舞台はと言えば、『ヴィクトリア』の大竹しのぶばりの秘技を繰り出してきた! 見覚えのない雰囲気に、――貴女、いったい誰ですか、と最初は唖然。そして気づく。そこで踊っているのは、大人の強固なテクニックを備えた、少女(私には9歳くらいに見えた)! つまり、子供が抱く夢、憧れをそのまま具現化したような。――それで思い出した。北海道から東京を経由せずに世界に飛び出して行った芸術監督は、子供のとき、クリスマスプレゼントに「バレエが上手くなりたい」と願った人であることを。そして思い出した。今年NHK BSで観たドキュメンタリー「翔平を追いかけて」で、栗山英樹元北海道日本ハムファイターズ監督が語っていた、大谷翔平選手がクリスマスイヴに練習している動画を送ってきたというエピソードを。
ロシア人形を踊った岡庭伊吹と久保田青波の舞台から飛び出しそうな威勢のよさもよかった。何回も何回も聴いてきた『くるみ割り人形』ですが、今回、前には聴けていなかった音を認識(指揮:井田勝大、管弦楽:シアター オーケストラ トウキョウ)。そして観た晩「『エフゲニー・オネーギン』が聴きたい気分!」と書きましたが、新国立劇場オペラの新年最初の演目であることに後で気づき。以前入院したときには外出許可をもらって観に行ったほど、あひるのクリスマスには欠かせないKバレエの『くるみ割り人形』。今年もいい感じに年を越せそうです。
広間のクリスマスツリーのファンタジックな巨大化を経て、くるみ割り人形率いる兵隊たち対ねずみの王様率いるねずみたちとの戦いが繰り広げられる第1幕第3場。今年、ロサンゼルス・エンゼルスを中心に大リーグの試合を観てきて、戦う男の表現に厳しくなったあひるですが、くるみ割り人形役の栗山廉の戦う姿勢、きりっとしていてよかった――衣装の上着が赤なのがよけいにエンゼルスを思わせた。ここは芸術監督の芸術上の闘いが示されるところのあるシーンなので、引き締まっているのが◎。そして、くるみ割り人形とドロッセルマイヤー(杉野慧)とクララ(塚田真夕)のパ・ド・ドゥを経て、幕の振り落としにて<雪の国>へのファンタジックな転換――宝塚星組『JAGUAR BEAT−ジャガービート−』の中詰第12場D、銀橋上の赤の神(天華えま)の振りと共に行なわれる振り落としを観ると、『くるみ割り人形』のこの振り落としを思い出し――。芸術監督の出身地は北海道ということで、世にも激しく雪が舞い散る中で展開される<雪の国>ですが、雪の女王役日世菜の踊りが極上だった! 10月の『眠れる森の美女』でオーロラ姫に扮した彼女の踊りを「口の中でほろほろとろけるスペイン発祥の焼き菓子ポルポローネ」にたとえたけれども、雪の踊りは、……私が客席で少しでも身体を動かしたら、雪も、そして、長いようで短い人生の夢のようなきらめきもあっという間にとけてなくなってしまいそうで、そのはかなさが愛おしいがゆえに身じろぎもせず凝視していたい、そんな思いが全身を駆け抜けるものだった……。
そして第2幕、マリー姫役浅川紫織登場。チェレスタの音色そのものになってみたり、さまざまな名演を見せてきた彼女ですが、今年の舞台はと言えば、『ヴィクトリア』の大竹しのぶばりの秘技を繰り出してきた! 見覚えのない雰囲気に、――貴女、いったい誰ですか、と最初は唖然。そして気づく。そこで踊っているのは、大人の強固なテクニックを備えた、少女(私には9歳くらいに見えた)! つまり、子供が抱く夢、憧れをそのまま具現化したような。――それで思い出した。北海道から東京を経由せずに世界に飛び出して行った芸術監督は、子供のとき、クリスマスプレゼントに「バレエが上手くなりたい」と願った人であることを。そして思い出した。今年NHK BSで観たドキュメンタリー「翔平を追いかけて」で、栗山英樹元北海道日本ハムファイターズ監督が語っていた、大谷翔平選手がクリスマスイヴに練習している動画を送ってきたというエピソードを。
ロシア人形を踊った岡庭伊吹と久保田青波の舞台から飛び出しそうな威勢のよさもよかった。何回も何回も聴いてきた『くるみ割り人形』ですが、今回、前には聴けていなかった音を認識(指揮:井田勝大、管弦楽:シアター オーケストラ トウキョウ)。そして観た晩「『エフゲニー・オネーギン』が聴きたい気分!」と書きましたが、新国立劇場オペラの新年最初の演目であることに後で気づき。以前入院したときには外出許可をもらって観に行ったほど、あひるのクリスマスには欠かせないKバレエの『くるみ割り人形』。今年もいい感じに年を越せそうです。