藤本真由
(舞台評論家・ふじもとまゆ)
1972年生まれ。
東京大学法学部卒業後、新潮社に入社。写真週刊誌「FOCUS」の記者として、主に演劇・芸能分野の取材に携わる。
2001年退社し、フリーに。演劇を中心に国内はもとより海外の公演もインタビュー・取材を手がける。
ご意見・お問い合わせ等は
bluemoonblue@jcom.home.ne.jp まで。
星組東京宝塚劇場公演『RRR × TAKA"R"AZUKA 〜√Bheem〜(アールアールアール バイ タカラヅカ 〜ルートビーム〜)』『VIOLETOPIA(ヴィオレトピア)』[宝塚]
『RRR × TAKA"R"AZUKA 〜√Bheem〜』(Based on SS Rajamouli’s ‘RRR’.)は、S・S・ラージャマウリ監督の世界的大ヒット映画『RRR』が原作(脚本・演出:谷貴矢)。実在の独立運動指導者コムラム・ビームとA・ラーマ・ラージュを主人公に、二人がイギリス領インド帝国に戦いを挑んでいく物語を、宝塚版ではビーム視点で再構築。シャーロック・ホームズ・シリーズの作者アーサー・コナン・ドイルを主人公に据えた雪組公演『ボイルド・ドイル・オンザ・トイル・トレイル−Boiled Doyle on the Toil Trail−』が大英帝国の光の部分を描く作品ならば、続いての星組公演は大英帝国の負の部分に光を当てる作品である。宝塚大劇場公演の初日が開いてすぐ観る機会があり、……こんなにも重いテーマを扱い、歌と踊りをふんだんに盛り込んだ作品を、年明け早々このクオリティで上演するんだ……と、正月気分が吹っ飛んだ。大劇場での一カ月ほどの公演を経ての東京宝塚劇場公演はますますパワーアップ。実際の歴史においては出逢うことのなかったコムラム・ビーム(礼真琴)とA・ラーマ・ラージュ(暁千星)が運命的な出会いを果たし、それぞれの使命と友情との間で揺れる、そんな人間模様があざやかに描き出される。映画で大人気を博した「ナートゥ・ナートゥ」のダンス・シーンも、抑圧からの解放を目指して立ち上がる強い思いがこめられているからこそ熱く激しく盛り上がる、そんな物語上の重要性をきっちりと踏まえて踊られているのがすばらしい。
大劇場で舞台を観た際、新宿中村屋のインドカリーのキャッチフレーズが「恋と革命の味」であることを思い出した。ビームやラーマより少し上の世代の独立運動家だったベンガル生まれのラス・ビハリ・ボースは、インド総督への襲撃事件をきっかけにイギリス政府に追われる身となり、日本に密入国して武器を祖国へと送る。日本政府からも国外退去命令を受けるが、中村屋の創業者夫妻が彼をかくまい、夫妻の娘とボースは後に結婚。そして、本場のカリーを日本に紹介したいとのボースの願いから中村屋名物インドカリーが生まれ、今日に至るまでその味を伝えている。子供のころから親しんでいて、今でも月に一度は食べに行く、その味の背景にある物語を思った。
『VIOLETOPIA』は作・演出の指田珠子の大劇場デビューとなるレビュー。廃墟となった劇場が、そこに棲まう記憶と共に甦り――。劇場に在るのは幻! 虚構! とこれでもかと提示され、じらしありずらしあり、客席降りで盛り上がる中詰め使用曲の原曲は、熱狂的なファンに対するどこか冷やかな目線の歌詞が印象的な、フランスのバンド、フェニックスの「リストマニア」(“リストマニア”=作曲家フランツ・リストの熱狂的なファンの意。2022年に上演された宝塚花組『巡礼の年〜リスト・フェレンツ、魂の彷徨〜』にも“リストマニア”が登場していた)。それでも拍手と手拍子を送ってしまう劇場好きとは随分と被虐的であることよ……と自嘲したくなるようなせつなさを覚える、そんな毒がどこかたまらない作品。星組の今の充実ぶりがうかがえる、見応えありの二本立て。
大劇場で舞台を観た際、新宿中村屋のインドカリーのキャッチフレーズが「恋と革命の味」であることを思い出した。ビームやラーマより少し上の世代の独立運動家だったベンガル生まれのラス・ビハリ・ボースは、インド総督への襲撃事件をきっかけにイギリス政府に追われる身となり、日本に密入国して武器を祖国へと送る。日本政府からも国外退去命令を受けるが、中村屋の創業者夫妻が彼をかくまい、夫妻の娘とボースは後に結婚。そして、本場のカリーを日本に紹介したいとのボースの願いから中村屋名物インドカリーが生まれ、今日に至るまでその味を伝えている。子供のころから親しんでいて、今でも月に一度は食べに行く、その味の背景にある物語を思った。
『VIOLETOPIA』は作・演出の指田珠子の大劇場デビューとなるレビュー。廃墟となった劇場が、そこに棲まう記憶と共に甦り――。劇場に在るのは幻! 虚構! とこれでもかと提示され、じらしありずらしあり、客席降りで盛り上がる中詰め使用曲の原曲は、熱狂的なファンに対するどこか冷やかな目線の歌詞が印象的な、フランスのバンド、フェニックスの「リストマニア」(“リストマニア”=作曲家フランツ・リストの熱狂的なファンの意。2022年に上演された宝塚花組『巡礼の年〜リスト・フェレンツ、魂の彷徨〜』にも“リストマニア”が登場していた)。それでも拍手と手拍子を送ってしまう劇場好きとは随分と被虐的であることよ……と自嘲したくなるようなせつなさを覚える、そんな毒がどこかたまらない作品。星組の今の充実ぶりがうかがえる、見応えありの二本立て。