藤本真由
(舞台評論家・ふじもとまゆ)
1972年生まれ。
東京大学法学部卒業後、新潮社に入社。写真週刊誌「FOCUS」の記者として、主に演劇・芸能分野の取材に携わる。
2001年退社し、フリーに。演劇を中心に国内はもとより海外の公演もインタビュー・取材を手がける。
ご意見・お問い合わせ等は
bluemoonblue@jcom.home.ne.jp まで。
星組東京建物 Brillia HALL公演『夜明けの光芒』[宝塚]
チャールズ・ディケンズの長編小説『大いなる遺産』が原作。登場人物の性格も変わりかねない物語変更がある中、星組生たちはよく頑張っている。主人公ピップを演じる暁千星は、子供時代を演じる場面はないものの、どこか途方に暮れて膝を抱え座っている少年の面影を常に感じさせるような演技が魅力。ディケンズの原作の言葉そのままのセリフを口にしたとき、観る者の心に迫るものがある。フィナーレのソロダンスでは空を貫く彗星の如き輝きを見せた。温かみあふれるピップの義兄ジョー・ガージェリー役の美稀千種、ワイルドに一途な脱獄犯エイベル・マグウィッチ役の輝咲玲央が物語をがっちり固め、ピップの親友ハーバート・ポケット役の稀惺かずともさわやか。舞台版でさらに難易度増したミステリアスなヒロイン、エステラ役の瑠璃花夏も健闘している。天飛華音がピップの恋敵であるベントリー・ドラムルと、ピップの心の中にひそむ“闇”を一人二役で演じているが、作劇及び演出上、現在と回想、現実と夢との区別のつけ方がうまく行っていないこともあり、難しい役どころとなっている。
観劇にあたり、初めて原作を読んだのだが(加賀山卓朗翻訳の新潮文庫版)、ページをめくる手が止まらないおもしろさ。ディケンズの人間存在や社会のあり方に対するまなざしに心打たれた。「つまり、人生をつうじて、私たちの最悪の弱さや卑しさは、もっとも軽蔑する人がいることで表に出てくる」(新潮文庫版上巻373ページ)の一節の鋭さ。
観劇にあたり、初めて原作を読んだのだが(加賀山卓朗翻訳の新潮文庫版)、ページをめくる手が止まらないおもしろさ。ディケンズの人間存在や社会のあり方に対するまなざしに心打たれた。「つまり、人生をつうじて、私たちの最悪の弱さや卑しさは、もっとも軽蔑する人がいることで表に出てくる」(新潮文庫版上巻373ページ)の一節の鋭さ。