藤本真由
(舞台評論家・ふじもとまゆ)
1972年生まれ。
東京大学法学部卒業後、新潮社に入社。写真週刊誌「FOCUS」の記者として、主に演劇・芸能分野の取材に携わる。
2001年退社し、フリーに。演劇を中心に国内はもとより海外の公演もインタビュー・取材を手がける。
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宙組東京宝塚劇場特別公演『Le Grand Escalier−ル・グラン・エスカリエ−』[宝塚]
昨年の『カジノ・ロワイヤル〜我が名はボンド〜』以来となった宙組の東京宝塚劇場での公演は、“大階段”をタイトルに掲げたレビューの一本もの(作・演出=齋藤吉正)。日本初のレビュー『吾が巴里よ<モン・パリ>』(1927)はじめ、宝塚で上演されてきたさまざまな作品の名曲から成り、黒燕尾服のシーンあり、ラテンのナンバーありと盛りだくさんの構成で、下級生に至るまで多くのキャストに見せ場が与えられている――『エスカイヤ・ガールス』(1965)表題曲を、娘役3名がアイドル風振付で踊るシーンの楽しさ(振付=瀬川ナミ)。そんな作品で、トップ娘役春乃さくらが大奮闘大活躍、ショースターぶりがすばらしい。ラテンクイーンに扮し、『パッショネイト宝塚!』(2014)の「パッショネイト!」を熱唱するシーンのはじけるエネルギー、その凄み。かと思えば、『ラ・ベルたからづか』(1979)の「ラ・ヴィオレテラ」ではしっとりとした歌唱を披露する。『王家に捧ぐ歌−オペラ「アイーダ」より』(2003)の「世界に求む−王家に捧げる歌−」に乗ってのデュエットダンスでは、トップスター芹香斗亜相手に頼もしいまでの包容力を発揮。年末を待たずして、春乃さくら、2024年度の躍進賞確定である。芹香斗亜は、<第4章>での『ザ・レビュー』(1977)の「夢人」の歌唱あたりから歌に思いが乗るようになっていった印象。桜木みなとは、熱いラテン・ナンバーで綴る中盤、『CONGA!!』(2012)表題曲のシーンでラテンに大いに強いところを見せた。動きの美しさで目を引くのは天彩峰里。『BLUE・MOON・BLUE−月明かりの赤い花−』(2000)再現のシーンで蛇に扮した鷹翔千空は、その他のシーンでも踊りのキレのよさが際立っていた。2000年の初演以来、本公演ではついぞ再現されることのなかった『BLUE・MOON・BLUE』のここに来ての再現はうれしく、と同時に、大切な青春の一章のファイナル・ページをめくったような思いでいっぱいである。