藤本真由
(舞台評論家・ふじもとまゆ)
1972年生まれ。
東京大学法学部卒業後、新潮社に入社。写真週刊誌「FOCUS」の記者として、主に演劇・芸能分野の取材に携わる。
2001年退社し、フリーに。演劇を中心に国内はもとより海外の公演もインタビュー・取材を手がける。
ご意見・お問い合わせ等は
bluemoonblue@jcom.home.ne.jp まで。
文楽と歌舞伎で『夏祭浪花鑑』
ただいま、新国立劇場中劇場の令和6年9月歌舞伎公演と、新国立劇場小劇場の令和6年9月文楽鑑賞教室で、『夏祭浪花鑑』を同時上演中。9日夜の部の文楽と11日昼の部の歌舞伎を観劇、同じ時期に観られると、それぞれの分野の人間描写の違いが改めてよくわかって非常におもしろいなと。例えば、<釣船三婦内の段>で、女の意地を通すため自分の顔に傷をつけた徳兵衛女房お辰が、そんなことをして徳兵衛に嫌われないかと三婦女房おつぎに言われ、夫が惚れているのは私のここ(顔)ではなくてここ(心)と身振りで示すくだりが好きなのですが、文楽にはない。けれども、竹本織太夫の語りは、お辰が釣船三婦に顔の美しさをほめられて満更でもない虚栄心や、顔を傷つけたお辰とその心意気に感じ入った三婦との間に年齢や性別を超えた友愛が生まれる様を描き出し。歌舞伎では、ここのくだりで、お辰役の片岡孝太郎とおつぎ役の中村歌女之丞との間に、「あなたのとこもそうでしょ」みたいな女同士の心の通い合いがあったのが楽しく。文楽も歌舞伎も見どころいっぱいの名作だなとしみじみ。