『Touching the Void タッチング・ザ・ヴォイド〜虚空に触れて〜』
 アンデス山脈での遭難事故で弟ジョー(正門良規)を亡くしたセーラ(古川琴音)は、ジョーの登山パートナーのサイモン(田中亨)とテント番を務めたリチャード(浅利陽介)と共に、弟の山での生と死の極限を追体験しようとする――。実際に起きた山岳事故をベースにした舞台(原作:ジョー・シンプソン、脚色:デイヴィッド・クレッグ)の日本初演で、イギリスでの世界初演を手がけたトム・モリスが演出。観客は、まずは舞台上で実際にクライミングを手ほどきされるセーラの存在を通じて、登山体験の魅力へといざなわれていく。そして、ジョーとサイモンが直面する過酷な事態。序盤で鼓動の如く鳴り続ける音をはじめとする音響効果(作曲/サウンドデザイナー:ジョン・ニコルズ)、抽象の豊かさで観る者の想像力をかきたてる舞台美術(美術/衣裳デザイナー:タイ・グリーン)、ときに内的世界に分け入るような照明(照明デザイナー:クリス・デイヴィー)、さまざまな要素が有機的に作用しあって、山でのドラマのみならず、演劇論、芸術論、人生論も展開されていくような広がり。精神と肉体の極限におけるある種の霊的体験も扱われている趣で、実人生における体験と照らし合わせながら非常に興味深く観た。

(10月21日13時の部、パルコ劇場)