花組博多座公演『マジシャンの憂鬱』『Jubilee』[宝塚]
 2007年の月組初演以来の上演となった『マジシャンの憂鬱』(作・演出:正塚晴彦)は、透視能力があるという設定で事件を解決し、寵児となったマジシャンのシャンドール(永久輝せあ)が主人公。己の披露するマジックについて軽妙なメロディで「♪命をかけたりしません」と歌う主人公は難事件に巻き込まれるが、その過程で出逢ったヴェロニカ(星空美咲)は「命をかけてお守りします」とりりしく宣言する女性で、やがて二人は心を通わせていく。正塚は昨年月組で上演された『Eternal Voice 消え残る想い』で透視能力をもつ主人公とヒロインを登場させており、“不思議な力”への関心が本作に遡ることを興味深く思った。また、ヴェロニカが仕えていた皇太子妃マレーク(美羽愛)は愛読書としてシェイクスピアを残しているのだが、本作にはどこかシェイクスピアの『ハムレット』(墓場、ドクロ、正気をなくした女性)や『冬物語』(エンディング)のエッセンスが流れているように感じられるのをおもしろく観た。永久輝は、作品のタイトル通り、憂鬱をまとったマジシャンの、どこか何か一枚隔てたところで人と接している風なのが、ヴェロニカと出逢って何とはなしに変化していく様を演じて魅力的。星空も、一途で頑なささえ感じさせる女性が永久輝シャンドールと出逢って心がほどけ、肩の荷が降りていく様子を演じて、けなげなヒロイン役に強いところを見せた。ラスト近くでシャンドールが口にする「好きですよ、あなた」は、印象的なセリフとして初演時から話題にのぼるものだったと記憶しているが、このセリフに、演出家が考える宝塚の男役の美学がにじんでいるように感じた。専科の高翔みず希と凛城きらが、墓守のシュトルムフェルド役とその妻で墓守のアデルハイド役で出演。二人のセリフの絶妙な間合いが、掛詞をはじめ言葉遊びの趣向が効かせてある本作の肝を強力に支える。司祭シャラモン役の紫門ゆりや、シャンドールの仲間の一人で探偵ラースロ役の羽立光来のとぼけた味わいが、作品のほっこりムードに貢献。
 レヴュー『Jubilee』(作・演出:稲葉太地)は宝塚大劇場・東京宝塚劇場公演からの続演。全体的に熱気が増し、花組らしい上品さと熱さとが感じられる作品に仕上がった。永久輝にトップとしての頼もしさが増し、組のまとまりも感じられて、男役の黒燕尾服のダンス場面も見応えあり。星空のきりっキビキビッとした所作も心地よい。聖乃あすかが芯になっての<Liberation(花は枯れた)>の場面も熱い展開。芝居もレヴューも、何だか東京宝塚劇場で観劇しているように感じる瞬間があり、博多座公演で醸し出されるホーム感を楽しく思った。