藤本真由
(舞台評論家・ふじもとまゆ)
1972年生まれ。
東京大学法学部卒業後、新潮社に入社。写真週刊誌「FOCUS」の記者として、主に演劇・芸能分野の取材に携わる。
2001年退社し、フリーに。演劇を中心に国内はもとより海外の公演もインタビュー・取材を手がける。
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宙組東京宝塚劇場公演『宝塚110年の恋のうた』『Razzle Dazzle』&芹香斗亜退団[宝塚]
宝塚歌劇百十周年紀念奉舞『宝塚110年の恋のうた』(作・演出:大野拓史)の主人公、芹香斗亜演じる藤原定家は、想い人である式子内親王(春乃さくら)を失い、和歌が詠めなくなってしまう。そんな定家の前に、桜木みなと演じる俳優(わざおぎ)の八千代が現れ、百十年もの間、恋の歌を歌ってきた世界(=宝塚歌劇)を共に旅することで、定家に再び歌を詠む気力を取り戻させていく。定家、そして式子内親王が宝塚で上演されてきた過去作品をリプライズしていく趣向は、陰陽師の安倍泰成と妖狐の玉藻前が千年にわたって転生を繰り返すという設定の、同じ作者による日本物レヴュー『白鷺の城』(2018)を思い出させるところがある。
宝塚の恋の名曲でつづられていく本作において、恋の歌が歌われなかった時代を伝える意図で、『翼の決戦』の曲が歌われる場面がある。『翼の決戦』は、第二次世界大戦時、政府の決戦非常措置要綱によって1944年3月4日をもって宝塚大劇場が閉鎖されることになった際、雪組によって上演されていた作品の一つで、桜木扮する八千代がその名ちなむところの当時の雪組トップスター春日野八千代が伊勢中尉を演じた作品である。劇場閉鎖が発表され、最後の舞台を観たいと押し寄せた観客の列が大劇場から宝塚南口駅まで連なったという話はよく知られる。宝塚大劇場はこの後、海軍に接収され、敗戦後の1946年に進駐軍から返還されるまで同劇場における宝塚の公演は途絶えた。『翼の決戦』において軍服姿の春日野八千代が軍機の上に立っている写真は宝塚歌劇の歴史をたどる本などでたびたび目にしてきていたが、眼前の舞台での再現に胸を衝かれるものがあった。
宙組トップスター芹香斗亜がこの公演の千秋楽をもって退団する。日本物レヴュー『宝塚110年の恋のうた』では名作からの抜粋場面においてさまざまな扮装姿を見せ、宛書オリジナル作品である『Razzle Dazzle』(作・演出:田渕大輔)では宝塚の男役がよく似合う長身をスーツに包んで登場、フィナーレでも男役として最後の舞を披露した。ブロードウェイ・ミュージカル『プロミセス、プロミセス』(2021)で芹香が主人公チャック・バクスター役を演じた際の表題曲の歌唱は今も心に残っている。それと、作品の根幹をしっかり支えた『El Japón−イスパニアのサムライ−』(2019−2020)のアレハンドロ役の演技も。そのナイーブな魅力がますます花開いていくことを願っている。
宝塚の恋の名曲でつづられていく本作において、恋の歌が歌われなかった時代を伝える意図で、『翼の決戦』の曲が歌われる場面がある。『翼の決戦』は、第二次世界大戦時、政府の決戦非常措置要綱によって1944年3月4日をもって宝塚大劇場が閉鎖されることになった際、雪組によって上演されていた作品の一つで、桜木扮する八千代がその名ちなむところの当時の雪組トップスター春日野八千代が伊勢中尉を演じた作品である。劇場閉鎖が発表され、最後の舞台を観たいと押し寄せた観客の列が大劇場から宝塚南口駅まで連なったという話はよく知られる。宝塚大劇場はこの後、海軍に接収され、敗戦後の1946年に進駐軍から返還されるまで同劇場における宝塚の公演は途絶えた。『翼の決戦』において軍服姿の春日野八千代が軍機の上に立っている写真は宝塚歌劇の歴史をたどる本などでたびたび目にしてきていたが、眼前の舞台での再現に胸を衝かれるものがあった。
宙組トップスター芹香斗亜がこの公演の千秋楽をもって退団する。日本物レヴュー『宝塚110年の恋のうた』では名作からの抜粋場面においてさまざまな扮装姿を見せ、宛書オリジナル作品である『Razzle Dazzle』(作・演出:田渕大輔)では宝塚の男役がよく似合う長身をスーツに包んで登場、フィナーレでも男役として最後の舞を披露した。ブロードウェイ・ミュージカル『プロミセス、プロミセス』(2021)で芹香が主人公チャック・バクスター役を演じた際の表題曲の歌唱は今も心に残っている。それと、作品の根幹をしっかり支えた『El Japón−イスパニアのサムライ−』(2019−2020)のアレハンドロ役の演技も。そのナイーブな魅力がますます花開いていくことを願っている。