月組全国ツアー公演『花の業平〜忍ぶの乱れ〜』『PHOENIX RISING−IN THE MOONLIGHT−』[宝塚]
 福岡サンパレスホテル&ホールにて観劇。
 『花の業平〜忍ぶの乱れ〜』(作=柴田侑宏、演出=大野拓史)は、2001年に星組によって初演された作品の23年ぶりの再演。2001年と言えば、現在の東京宝塚劇場が竣工した年。同じ年、月組の真琴つばさ、星組の稔幸、二人のトップスターが東京宝塚劇場公演ではなく宝塚大劇場公演を最後に退団。その稔が退団公演の一つ前の宝塚大劇場公演で、そして稔の後任となった香寿たつきがトップお披露目の東京宝塚劇場公演でこの『花の業平』に主演した。香寿はその翌年の中日劇場公演でもこの作品に主演しており、今回はそれ以来の再演となる。鳳月杏の在原業平、天紫珠李の藤原高子、風間柚乃の藤原基経というキャスティングだが、3人は月組で2023年に上演した『応天の門』でもそれぞれ同じ役を演じている。鳳月の業平と天紫の高子は、共に社会や家の“規範”から外れたアウトサイダーであるが故に激しく恋に落ちる姿をくっきり描き出す。香寿が業平、渚あきが高子を演じた2001年の東京宝塚劇場公演では、高子が「帝よりずっと年上」と自嘲するセリフ、そして、権力を欲しいとは思っていなかったけれども、恋しい女を帝に嫁がせたくない、ずっと共にいたいと願う今は権力が欲しいと業平が吐露する場面が印象的だった。今回の上演では、高子に逢いたいと願う業平の狂気にも似た思いや、己の心に忠実に生きようとする高子の凛とした強さが心に残り、たとえ高子が帝に嫁ぎ、離れ離れとなってもこの恋を貫き通そうというラストシーンが清々しい決意に満ちたものとして映った。風間の基経も権力欲に取りつかれた人物の哀しさを表現。高貴な生まれながら今は京の市を仕切る頭領である梅若役の礼華はるが、貴公子ぶりを漂わせつつ市井に生きる者の気概を感じさせる。安倍清行役の夢奈瑠音は業平への友情に篤いところを見せた。藤原良房の妹で太皇太后の順子役の梨花ますみが、同じ悲しみを味わった女性として高子への共感を示す様がしっとり魅力的。作品の奥深さを感じられる舞台で、劇作家が在原業平という存在に託したものに改めて思いを馳せた。
 『PHOENIX RISING−IN THE MOONLIGHT−』(作・演出=野口幸作)は宝塚大劇場&東京宝塚劇場公演から新たな場面も加わっての続演。風間(愛称「おだちん」)がインド・ボリウッド映画界のスーパー・スター、ヒゲ面もりりしいオダチン・カーンに扮し、ジャンル違いの5本の新作映画の撮影に同時進行で挑む場面は、東京宝塚劇場公演では終始幸せに笑いながら観ていたが、今回は何だか口をあんぐり開けてその細かな歌い分け、踊り分けの技術に聞き入り、見入っており。古代歴史アクション、ディスコ・ミュージカル、近未来SF、学園ミュージカル、王道ボリウッド・ロマン、オダチン・カーンはどの作品でも魅力的だけれども、一番心ひかれるのは近未来SFかも。ロボット・ダンスを踊りながら「♪恋のプログラムアップデート中」と歌う姿を見るだけで、ロボットのせつない恋物語の想像がふくらむ。またいつかオダチン・カーンに逢いたい! 鳳月と礼華がチャイナ服でタンゴを踊るNEO SHANGHAIの場面は、上海航路が就航していた長崎港、そして台湾や大連への国際航路や欧州航路の寄港地として栄えた門司港が近い福岡の地で観るとその魅力をひときわ身近に感じられるところがあり。<FLIGHT REFLECTION−愛の飛翔−>では、東京宝塚劇場公演に引き続き、鳳月が月組生と共にエネルギッシュに盛り上がり、「今を楽しもう!」というメッセージを歌い上げる。天紫は気合の入ったスカートさばきに月組のトップ娘役らしい魅力を感じさせ、彩みちる、桃歌雪も月組娘役らしい威勢のよい躍動。礼華の成長、活躍が目を引いた。鳳月と天紫のデュエットダンスでは、彩海せらが思いのこもったカゲソロで盛り上げた。
 散歩がてら、天神から劇場まで歩き、帰りも違う道を天神まで20分ほど歩いたのだけれども、その帰り道、インドカレー屋を発見。スーパー・スターのオダチン・カーンは屋台ラーメンをお忍びで食べに行くとアドリブを飛ばしていましたが、あひるはオダチン・カーンに敬意を表し、ヒゲ面の人々がノリノリで踊るビデオを見ながらインドカレーを食べました。観たら毎回エスニック料理を食べずにはいられない、『PHOENIX RISING−IN THE MOONLIGHT−』はそんなレヴュー。