雪組東京宝塚劇場公演『ROBIN THE HERO』『オーヴァーチュア!』&退団者[宝塚]
 『ROBIN THE HERO』では、朝美絢扮するロビン・ロクスレイ(ロビン・フッド)と夢白あや扮するマリアン・メイデンが、愛すみれ扮する尻尾の生えた魔術師ミス・オフィーリアの術により魂が入れ替わってしまうくだりがある。男役である朝美が女性を、娘役である夢白が男性を演じる。女性がすべての役柄を演じる上で男役/娘役という約束事のある宝塚歌劇においてチャレンジングな設定だが、雪組新トップスター朝美絢は、夢白の雰囲気をとらえつつもコミカルでチャーミングな演技を披露、朝美自身の女性としての魅力をもただよわせ、魂が元に戻った後は自身の男役像へとしっかり戻すコントロールのよさを見せた。夢白も、ドレスを着用しながら足を大股開きにするなどして威勢のよいセリフ回しを聞かせ、通常の娘役時とは異なる女性としての魅力を発揮していた。トリッキーな趣向をこなした二人の関係性は、ショー『オーヴァーチュア!』でもおもしろいところに着地していると感じた。夢白はここに来て、娘役道を追求した先にある生身の女性として舞台に立ち現れることを選択したかのようなのである。娘役でありながら生身の女性感を発揮していた先達としては、前宙組トップスター潤花という存在があったが、夢白の生身感は潤のそれともまた異なる。それが宝塚歌劇の舞台で成立しているのは、朝美をはじめとする雪組男役陣の芸、そして雪組娘役陣の芸がしっかりしているからなのだろうとも思う。新トップコンビが拓いていく地平が楽しみである。
 星組を経て、一年あまり専科で過ごし、その時期に外部出演もあった瀬央ゆりあは、彼女自身のエネルギーが役を通して上手く回るようになった感がある。『ROBIN THE HERO』で演じたガイ・ギズボーンは、同じ演出家による『JAGUAR BEAT−ジャガー・ビート−』(2022−2023)で演じたバファローの系譜にある野心の役どころだが、迫力の表現に成熟あり。義賊団の一人で詩人のスカーレット役の華純沙那にキュートな魅力。ミス・オフィーリア役の愛すみれは魂入れ替わりの際にB'zの「ultra soul」を妖しく熱唱、そのはっちゃけぶりに芸の上での頼もしさを感じた。
 この公演の千秋楽をもって宝塚を退団する久城あすが演じるのは酒飲みの修行僧タック・ベリー。名前の音もキャラクターも『夏の夜の夢』のパックに似ているし、奏乃はると演じるリチャード一世との関係性は何だか『ヘンリー四世』におけるハル王子とフォルスタッフの関係性を思わせるし、「ミス・オフィーリア」は出てくるし、こんなにいろいろシェイクスピアを混ぜ込むならいっそシェイクスピア・レビューはどうかしら(宝塚では昔、『ヘミングウェイ・レビュー』という作品があった)と考えてまず自分で思いついたのが、『マクベス』のバーナムの森が動いた! のラインダンスによる表現だったという(笑)。久城は下級生のときから達者な演技を見せる人で、月組の風間柚乃よろしく早々と新人賞候補から外してしまっていた覚えがある。タック役でも軽妙な演技を披露、物語のコメディ部分に貢献した。そのタックが飛ばした伝書鳩は、スカーレットに手懐けられていた。飛ばない鳥。