花組東京国際フォーラム公演『Goethe(ゲーテ)!』[宝塚]
 日本でも『ゲーテの恋〜君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」〜』のタイトルで公開されたドイツ映画をもとに作られた2021年初演のドイツ・ミュージカル(音楽/マルティン・リングナウ、歌詞/フランク・ラモン、脚本/ギル・メーメルト、編曲/セバスチャン・ド・ドメニコ)の日本初演(日本語脚本・訳詞・演出/植田景子)。若き日のヨハン・ヴォルフガング・ゲーテが恋に悩み、『若きウェルテルの悩み』を生み出すまでを、フィクションを交えて描く青春物語。
 青春の疾走感、焦燥、ときめきに満ちたポップな音楽がいい。表題曲もサビをすぐさま覚えて口ずさめるほどキャッチー――作中何度か流れるが、そのタイトルが、主人公がまだ何者でもないオープニングでは「ゲーテ?」、ラストでは「ゲーテ!」となっているのが心憎い。そして、花組トップコンビ永久輝せあ&星空美咲にぴったりの作品である。永久輝が演じるのはタイトルロール、星空が演じるのは彼の恋のお相手シャルロッテ・ブッフことロッテ。恋の胸キュンを描き出すことに秀でたトップコンビである。この前の東京宝塚劇場公演『悪魔城ドラキュラ〜月下の覚醒〜』でも、ヒロイン星空が永久輝演じる主人公のマントにバックハグの体勢で自ら包み込まれにいくという胸キュン・シーンがあった。今回の作品でも、芸術の世界に生きたい思いと法律家として生きてほしい父の願いの間で葛藤する青年と、大勢の兄弟を亡き母の代わりになって育てる優しい少女とが、芸術を通して心を通い合わせていく様をキュートに描き出していく。行動する優男、その若さゆえの焦り。芸術に心ひかれて目覚めていく少女の純真さ。二人の出逢いの場面では、音楽と相俟って現出される青春のきらめきに落涙。
 しかしロッテは家族の生活を支えるため愛していない男と婚約、ヨハンはその婚約者と決闘することになり、牢獄に入る。そこで執筆した『若きウェルテルの悩み』をロッテに送るヨハン。原稿を読んだロッテはヨハンの独房を訪れ、あなたは田舎で家族を養うために働くような男ではない、あなたではなく婚約者を愛している、芸術に生きよと突き放す。愛ゆえの“愛想尽かし”、女のやせ我慢。このナンバー「別れ」で、星空ロッテが激烈な歌唱を聴かせる――このとき、ヨハンのミューズであるロッテは、彼を生かし、その芸を伸ばすための芸の鬼ともなる。しかも彼女は出版社を訪れて作品の出版を懇願し、ヨハンの知らないところで『若きウェルテルの悩み』は大ベストセラーになるという筋立て。永久輝ヨハンも、星空ロッテの言葉に一度は絶望するも踏み止まって生き続けようとする姿に、運命に立ち向かう人間の芯の強さを感じさせた。
 『若きウェルテルの悩み』といえば、発表当時、若者たちの自殺ブームを巻き起こした作品として知られるが、近松門左衛門も心中物を次々と発表して心中ブームを巻き起こし、江戸幕府が心中物の上演を禁止したこと、『若きウェルテルの悩み』はゲーテの友人の自殺が題材だが、近松も実際に起きた心中事件を多く題材にしていることを思った。ちなみに、植田景子には近松作品をベースにした『近松・恋の道行』という作品を手がけた経験がある。また、ヨハンがゲーテという姓の綴りを繰り返す様子に、「ギョエテとは俺のことかとゲーテ言い」という川柳を思い出した――海外の名前を日本語でカタカナ表記する難しさを詠んだものなのだけれども、「ゲーテ」の綴りも難しい?
 花組生たちがエネルギーいっぱいの演技を見せ、専科の高翔みずきがゲーテの父ヨハン・カスパー・ゲーテ役で出演、息子が成功したと知ったときの手のひら返しぶりがおかしい。ロッテの父ハインリッヒ・アダム・ブッフ役の峰果とわは、家族の幸せを選択することが娘にとって当然の幸せだという彼の信念を歌唱にさらに強くこめられるようになると、ゲーテとロッテの恋が直面している困難の大きさが表現されるようになると思う。ゲーテの友人で人妻との恋に悩むヴィルヘルム・イェルザレム役の聖乃あすかがトンネルを抜けた先に見せる新境地に期待。男役の美空真瑠がヴィルヘルムとの恋に悩む人妻マルガレーテ・ロートショプフ役で力強い歌唱を聴かせる。