『ピーターとアリス』
 ジョン・ローガンの2013年初演戯曲を、早船歌江子の翻訳、熊林弘高の演出で上演(東京芸術劇場プレイハウス)。『ピーターパン』のモデルとなった人物と、『不思議の国のアリス』のモデルとなった人物は、1932年、実際に出会っていた。二人がそのとき交わしたかもしれない会話に、物語の著者であるジェームズ・バリーとルイス・キャロル、そしてピーターパンとアリスも加わっていく。書く者とそのインスピレーション=書かれた者との関係性を描き、つらい現実を生きるその後のピーターとアリスに原作からのフレーズが重ねられて語られる。知的刺激とウィットに富み、豊饒なイメージと論点をもつ戯曲だけに、もう少し整理された演出で提示されたかったような……。80歳となったアリス・リデル・ハーグリーヴス(麻美れい)がラスト近くに語るセリフが、−−モデルとなった自分をときに縛りもした物語を書いた作者が、その物語を書くに至った生きる上での痛みを、自分自身、生きてきた中で理解した――、そんな人生の諦念、それでも生きていくとの覚悟に満ちていて、快哉を叫びたくなった。「百年後、アリス・リデルを思い出す人は誰もいない、でも不思議の国のアリスのことは、誰も忘れない」というセリフがあるけれども、カナダで過ごした少女時代、『鏡の国のアリス』の最後にある、アリス・プレザンス・リデル(結婚前の名)の名前がアクロスティック(縦読み)になった詩に魅せられ、暗唱したり、自分でも同じ試みの詩を作ったりしていたので、ずっと覚えているぞ〜と――その詩の最後の一行が「Life, what is it but a dream?」であることを、改めてかみしめた。