藤本真由
(舞台評論家・ふじもとまゆ)
1972年生まれ。
東京大学法学部卒業後、新潮社に入社。写真週刊誌「FOCUS」の記者として、主に演劇・芸能分野の取材に携わる。
2001年退社し、フリーに。演劇を中心に国内はもとより海外の公演もインタビュー・取材を手がける。
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「大好きだ!」〜星組東京宝塚劇場公演『恋する天動説』『DYNAMIC NOVA』その2[宝塚]
今の組とスターの輝き、個性に当て書きされたオリジナル作品の贅沢さを感じた『恋する天動説』(作・演出/大野拓史)。暁千星&詩ちづるの星組新トップコンビに加え、星組生と専科生の魅力も大いに味わえた。詩演じるヒロイン・シンシアの祖母のホテル王で、大勘違いから大騒動を巻き起こすドロシー・ブラックウェル役の万里柚美は、2020年の専科移動まで星組の舞台を長年支えた人である。今回も、「初志貫徹。頑固一徹」なるポーズ付きのキャッチフレーズ通りの猛進ぶりと、ほっこりするような超ボケボケの部分とを兼ね備えた人物を造形。彼女が振り返るその人生が、やはり猪突猛進なところのあるシンシアの未来を照らし出す。ドロシーの主治医ミラー役の美稀千種の温かみ。ドロシーの次男でホテル・グループの乗っ取りを企むゴードン役の輝咲玲央も、策略は練るものの根は悪い人ではなさそうで、ダンディかつボケボケ(血筋?)。立ち止まっていたアレックス(暁千星)が再び走り始めるきっかけをも与える元レーサー、ピート・ダグラス役の朝水りょうの誠実な芝居。アレックスのモッズの先輩(「以前は格好良かったのに」というツッコミつき)で今は仕立て屋のエース役のひろ香祐は、おかしみと心に今も流れる反骨精神を体現。『DYNAMIC NOVA』<火星(マヤカシの夜)>では燃える竜を思わせる熱い歌を披露するひろ香は、今回の公演を最後に専科に移動するが、宝塚の舞台をさらに大きく豊かなものにすべく羽ばたいていってほしい。幕開き最初に登場する観光協会協会長モーガン役の蒼舞咲歩はこの公演が最後の舞台。地元のダンス大会をノリノリに仕切ってこのハッピー・コミカル・ムードの作品を盛り上げた。ホテル経営より星の研究に勤しみたいシンシアの兄ティモシー(碧海さりお)のちゃっかりお坊ちゃまぶりにも笑ってしまう(自分をかわいそうがるところもドロシーの血筋だなと)。大のサッカー・ファンのアレックス・ニュートン(大希颯)も含め、ボケボケな人ばっかり出てくるのがおもしろい。
宙組から組替えし、ポテンシャルの高さを発揮し始めた瑠風輝は、アレックスとは幼馴染のロッカーズのレスリー・ヤング役。不良っぽいのに実は真面目で友達思い、エントリーナンバー1番を獲得するほど地元のダンス大会に情熱を燃やしているところが笑える。「これで借りが返せるぜ」のセリフ、好きである。アレックスに群がる女たちを追い払っているモッズ仲間ロビン役の天飛華音は、モッズコートを着た姿がいかにもあんちゃんという感じ。モッズ仲間のバート(稀惺かずと)も交え、軽妙なやりとりを見せる。
娘役の活躍場面も多かった。セーラー風衣裳がかわいいホーンパイプ・ダンス。色とりどりのカラータイツが時代を感じさせるゴー・ゴー・ダンス。そして、前回記した、シンシアと妹キアラ(乙華菜乃)とキアラの友人ケイト(碧羽陽)、エリカ(茉莉那ふみ)が歌い踊る「恋は200マイル」の場面。このナンバー、歌詞も非常にキュートなのだが、アレックスに恋したシンシアが「♪こんな気持ちは二度目」と歌って他の三人に「♪二度目だと?」と突っ込まれるのが非常に好きである(一度目は時速百マイルを初めて越えた日だそうな)。このナンバーの前の場面で、初めて出逢ったアレックスに夢を応援され、ドキドキするシンシアのみピンクのライトで照らし出されるのもおかしい。モッズ軍団、ロッカーズ軍団の娘役たちのガラの悪さも楽しかった。
『DYNAMIC NOVA』は星めぐりがテーマのレヴュー作品(作・演出/稲葉太地)。新トップコンビお披露目作品にふさわしく始まり感がいっぱいで、主題歌『DYNAMIC NOVA』の一節「♪はじまる/STARTING!」の片手をあげて飛び上がる振りを真似してみると心に高揚感。かつての稲葉作品『Fashionable Empire』(2022年花組)の主題歌に『♪この手を取るか取らないか/(中略)/お前に決めてほしい』という一節があり、いや、それはそっちで決めて〜と思ったのだけれども、今回聞いていると、手をつなぎ、離さず、その上で「♪まだ見たことない世界 見に行こうぜ」(『DYNAMIC NOVA』)となっていて、何だか安心。オープニング直後にいきなりNOVA(暁千星)とプリンセス(詩ちづる)がケンカを始めるのだが、ここのコミカルな振りが楽しい(振付/百花沙里)。稲葉作品おなじみの大爆発ダンス・シーンでは、アップテンポの「星に願いを」に乗って大希颯を中心とした若手が躍動、「熱いぜ」みたいに顔を仰ぐ振りがかっこいい(音楽/高橋恵、振付/平澤智)。今回の2作品共、星組生が個性をバーッと出して客席に向かってくる感があってとてもよいのだが、<DYNAMIC NOVA(天の河、そして太陽)>はそんな今の星組の一体感が心地よい場面。
さて、『恋する天動説』には宝塚作品には珍しい趣向がある。最後の場面。国際レースから帰国したシンシアをアレックスが空港に迎えに来て、キスしようとすると、仲間たちがやってきて、阻まれる。人が見ていても自分は気にならないと、レスリーは彼女と、エースは妻とキスをする。はぐらかしてシンシアと共にスクーターに乗り、花道まで走るアレックス。キスを煽る人々。「何だよ、お前ら。俺が大好きかよ」と、ロビンやレスリー、そしてみんなに聞くアレックス。「大好きだ!」とそれぞれが答え、最後には、「こっちは、どうなんだ?…俺が好きか?」と、暁アレックスは客席に向かって問いかける。
『ヘイズ・コード』(2006‐2007)の、ルールをかいくぐってのキス・シーン思いついちゃった! の場面と、『記者と皇帝』(2011)の、「好きだ!」も含めて思っていたこと声に出して言っちゃった! の場面と。大野拓史の傑作2作品からの、ここはハイブリッド、さらに客席参加型なのである。客席も声に出して「大好きだ!」と言っていい。そんな機会があるなら、もちろん言うでしょう。人生つらいときも心の支えだった宝塚、その舞台に関わるすべての人々に対する感謝の思いをもこめて、5組の1つを背負って立派に走り出した新トップスターに。
「大好きだ!」
声に出して言ったら幸福感に包まれて、ますます宝塚歌劇を好きになっている自分がいた――今回の公演がいかにも宝塚らしい魅力にあふれた2本立てだったということも非常に大きい。本日千秋楽のライブ配信でも思いっきり言おう。
「大好きだ!」
宙組から組替えし、ポテンシャルの高さを発揮し始めた瑠風輝は、アレックスとは幼馴染のロッカーズのレスリー・ヤング役。不良っぽいのに実は真面目で友達思い、エントリーナンバー1番を獲得するほど地元のダンス大会に情熱を燃やしているところが笑える。「これで借りが返せるぜ」のセリフ、好きである。アレックスに群がる女たちを追い払っているモッズ仲間ロビン役の天飛華音は、モッズコートを着た姿がいかにもあんちゃんという感じ。モッズ仲間のバート(稀惺かずと)も交え、軽妙なやりとりを見せる。
娘役の活躍場面も多かった。セーラー風衣裳がかわいいホーンパイプ・ダンス。色とりどりのカラータイツが時代を感じさせるゴー・ゴー・ダンス。そして、前回記した、シンシアと妹キアラ(乙華菜乃)とキアラの友人ケイト(碧羽陽)、エリカ(茉莉那ふみ)が歌い踊る「恋は200マイル」の場面。このナンバー、歌詞も非常にキュートなのだが、アレックスに恋したシンシアが「♪こんな気持ちは二度目」と歌って他の三人に「♪二度目だと?」と突っ込まれるのが非常に好きである(一度目は時速百マイルを初めて越えた日だそうな)。このナンバーの前の場面で、初めて出逢ったアレックスに夢を応援され、ドキドキするシンシアのみピンクのライトで照らし出されるのもおかしい。モッズ軍団、ロッカーズ軍団の娘役たちのガラの悪さも楽しかった。
『DYNAMIC NOVA』は星めぐりがテーマのレヴュー作品(作・演出/稲葉太地)。新トップコンビお披露目作品にふさわしく始まり感がいっぱいで、主題歌『DYNAMIC NOVA』の一節「♪はじまる/STARTING!」の片手をあげて飛び上がる振りを真似してみると心に高揚感。かつての稲葉作品『Fashionable Empire』(2022年花組)の主題歌に『♪この手を取るか取らないか/(中略)/お前に決めてほしい』という一節があり、いや、それはそっちで決めて〜と思ったのだけれども、今回聞いていると、手をつなぎ、離さず、その上で「♪まだ見たことない世界 見に行こうぜ」(『DYNAMIC NOVA』)となっていて、何だか安心。オープニング直後にいきなりNOVA(暁千星)とプリンセス(詩ちづる)がケンカを始めるのだが、ここのコミカルな振りが楽しい(振付/百花沙里)。稲葉作品おなじみの大爆発ダンス・シーンでは、アップテンポの「星に願いを」に乗って大希颯を中心とした若手が躍動、「熱いぜ」みたいに顔を仰ぐ振りがかっこいい(音楽/高橋恵、振付/平澤智)。今回の2作品共、星組生が個性をバーッと出して客席に向かってくる感があってとてもよいのだが、<DYNAMIC NOVA(天の河、そして太陽)>はそんな今の星組の一体感が心地よい場面。
さて、『恋する天動説』には宝塚作品には珍しい趣向がある。最後の場面。国際レースから帰国したシンシアをアレックスが空港に迎えに来て、キスしようとすると、仲間たちがやってきて、阻まれる。人が見ていても自分は気にならないと、レスリーは彼女と、エースは妻とキスをする。はぐらかしてシンシアと共にスクーターに乗り、花道まで走るアレックス。キスを煽る人々。「何だよ、お前ら。俺が大好きかよ」と、ロビンやレスリー、そしてみんなに聞くアレックス。「大好きだ!」とそれぞれが答え、最後には、「こっちは、どうなんだ?…俺が好きか?」と、暁アレックスは客席に向かって問いかける。
『ヘイズ・コード』(2006‐2007)の、ルールをかいくぐってのキス・シーン思いついちゃった! の場面と、『記者と皇帝』(2011)の、「好きだ!」も含めて思っていたこと声に出して言っちゃった! の場面と。大野拓史の傑作2作品からの、ここはハイブリッド、さらに客席参加型なのである。客席も声に出して「大好きだ!」と言っていい。そんな機会があるなら、もちろん言うでしょう。人生つらいときも心の支えだった宝塚、その舞台に関わるすべての人々に対する感謝の思いをもこめて、5組の1つを背負って立派に走り出した新トップスターに。
「大好きだ!」
声に出して言ったら幸福感に包まれて、ますます宝塚歌劇を好きになっている自分がいた――今回の公演がいかにも宝塚らしい魅力にあふれた2本立てだったということも非常に大きい。本日千秋楽のライブ配信でも思いっきり言おう。
「大好きだ!」


