藤本真由
(舞台評論家・ふじもとまゆ)
1972年生まれ。
東京大学法学部卒業後、新潮社に入社。写真週刊誌「FOCUS」の記者として、主に演劇・芸能分野の取材に携わる。
2001年退社し、フリーに。演劇を中心に国内はもとより海外の公演もインタビュー・取材を手がける。
ご意見・お問い合わせ等は
bluemoonblue@jcom.home.ne.jp まで。
令和8年2月文楽公演[文楽]
KAAT神奈川芸術劇場<ホール>での公演。
第一部
『通し狂言 絵本太功記』
<発端 安土城中の段>音楽に迫力を感じた。
<六月朔日 二条城配膳の段>竹本三輪太夫の語りが示唆に富むものだった。太夫が語ることで文章が立体的な物語として立ちあがる。その際、さまざまな要素がきちんと計算されて語られているからこそ、きれいな立体として立ち上がるのだと感じた。
<六月五日 局注進の段>[奥]素敵な段だなと感じさせる豊竹靖太夫の語りと竹澤宗助の三味線のバランスのよさ。
<長左衛門切腹の段>[切]竹本千歳太夫の語りと豊澤富助の三味線のバランスがよく心地いい。命の火花散るような。供養の念も感じた。
第二部
『通し狂言 絵本太功記』
<六月十日 尼ヶ崎の段>[前](太夫=豊竹呂太夫、三味線=鶴澤清治)凄まじい反戦の物語が展開された――書き記そうとするだけで、その尊さと重みに涙があふれてくるような。戦いへと男を送り出す女。その結果生じる悲しみ、悔恨の念。社会全体が狂気のような渦に巻き込まれていく時代。昨年の「壽 初春大歌舞伎」(歌舞伎座)夜の部『一谷嫩軍記 熊谷陣屋』における白毫弥陀六実は弥平兵衛宗清役の中村歌六の演技を観たとき、こういった物語を第二次世界大戦敗戦後の人々はいったいどのような思いで見つめていたのだろうと考えずにはいられなかったのだけれども、その一つの答えを、この日の三味線の中に聴くことができたように思った。悲劇、人間の愚かさを、それでも尊厳をもって描き出す音色に、激しく心を揺さぶられた。
[切]戦地に向かう武智十次郎同様の死の覚悟がその祖母さつきにもあったことを、[前]からの流れできっちりすくう豊竹若太夫の語りを、鶴澤清介の三味線が盛り立てた。
第三部
《文楽名作入門》『勧進帳』竹本錣太夫による武蔵坊弁慶の不安も含めた心理描写が非常によく伝わってきた。死の覚悟から生への反転。何だか身じろぎして観てはならない宗教的儀式のように感じたりもする歌舞伎の『勧進帳』との違いを興味深く観た。花道を飛び六方で引っ込む武蔵坊弁慶(人形=吉田玉助)の迫力。
第一部
『通し狂言 絵本太功記』
<発端 安土城中の段>音楽に迫力を感じた。
<六月朔日 二条城配膳の段>竹本三輪太夫の語りが示唆に富むものだった。太夫が語ることで文章が立体的な物語として立ちあがる。その際、さまざまな要素がきちんと計算されて語られているからこそ、きれいな立体として立ち上がるのだと感じた。
<六月五日 局注進の段>[奥]素敵な段だなと感じさせる豊竹靖太夫の語りと竹澤宗助の三味線のバランスのよさ。
<長左衛門切腹の段>[切]竹本千歳太夫の語りと豊澤富助の三味線のバランスがよく心地いい。命の火花散るような。供養の念も感じた。
第二部
『通し狂言 絵本太功記』
<六月十日 尼ヶ崎の段>[前](太夫=豊竹呂太夫、三味線=鶴澤清治)凄まじい反戦の物語が展開された――書き記そうとするだけで、その尊さと重みに涙があふれてくるような。戦いへと男を送り出す女。その結果生じる悲しみ、悔恨の念。社会全体が狂気のような渦に巻き込まれていく時代。昨年の「壽 初春大歌舞伎」(歌舞伎座)夜の部『一谷嫩軍記 熊谷陣屋』における白毫弥陀六実は弥平兵衛宗清役の中村歌六の演技を観たとき、こういった物語を第二次世界大戦敗戦後の人々はいったいどのような思いで見つめていたのだろうと考えずにはいられなかったのだけれども、その一つの答えを、この日の三味線の中に聴くことができたように思った。悲劇、人間の愚かさを、それでも尊厳をもって描き出す音色に、激しく心を揺さぶられた。
[切]戦地に向かう武智十次郎同様の死の覚悟がその祖母さつきにもあったことを、[前]からの流れできっちりすくう豊竹若太夫の語りを、鶴澤清介の三味線が盛り立てた。
第三部
《文楽名作入門》『勧進帳』竹本錣太夫による武蔵坊弁慶の不安も含めた心理描写が非常によく伝わってきた。死の覚悟から生への反転。何だか身じろぎして観てはならない宗教的儀式のように感じたりもする歌舞伎の『勧進帳』との違いを興味深く観た。花道を飛び六方で引っ込む武蔵坊弁慶(人形=吉田玉助)の迫力。


